「…マスターの柿のジンクス、結構当たってるかも」
真っ暗な夜道に、ふたつの足音が響く。
深夜。
披露宴が終わって、帰ろうとしたわたしを、修介は送って行くと言ってくれて。
「…それは良かった」
繋がれた手が温かい。
絡められた指をキュッと握ると、修介もそれに応えるように握り返してくれる。
あの先の角を曲がれば、もう家に着いてしまう。
まだ、何となく離れたくなくて。
気がつくとわたしの足は、自然と立ち止まってしまっていた。
「…詩季?」
同じように足を止めた修介が、わたしに声をかける。
けれど、顔を見てしまったら、もっと離れられなくなりそうで。
どうしたんだろう。
やっぱりきっと、お酒に酔ったんだ。
「…詩季…」
その瞬間、ふわりと体を包む温もり。
「修…介…?」
大きな腕と、優しい彼の匂いがわたしを満たして。
「…やっぱり今夜は、離したくない」
「え…?」
思わず顔を上げると、コツンとおでこをくっつけられた。
「詩季と、ずっと一緒にいたい…いい?」
「うん…わたしも一緒に…」
言い終わらないうちに、柔らかく唇が塞がれる。
「んん…修介…」
「詩季…」
力強い腕が、わたしの腰を引き寄せて。
ゆっくりと、深く、重なり合う唇。
長い指が、クチナシの花を挿す髪をそっと避け、うなじに触れた。
甘い口付けは少しずつ熱をはらみ、もう何も考えられない。
「詩季に会えて…俺は幸せだよ。愛してる…」
「修介…わたしも…愛してる…」
クチナシの花言葉は、『わたしはとても幸せです』。
熱い吐息が夜の闇に紛れて。
その夜、わたしは彼の温もりに包まれて眠りについた。
―End.
2012.1.20