「お疲れさんー」
「こんばんはー」
わたしたちがふっと笑みを交わした時。
カランとお店のドアベルが鳴って、天王寺さんと瑛希くん、京橋さんが入って来た。
「詩季ちゃん、ドレスすっごく似合ってるね」
わたしの姿を捉えて、近付いて来た瑛希くんが真っ先にそう言ってくれる。
「ほんま、馬子にも衣装やないけど、似合うてる」
「ふふっ。ありがとうございます。皆さんの正装もステキですよ」
「お偉いさんの披露宴やなかったら、こんな格好せんからな。惚れ直したか?」
ニヤリと笑ってそう言うと、天王寺さんはソファに座った。
その通り、野村さんに言われなければ、わたしたち二課が上層部の結婚披露宴なんて出席することはなかったのだから。
「…クチナシの花ですか」
「えっ?」
物思いにふけっていたわたしの、背後から声をかけられて。
振り返ると京橋さんが立っていた。
「それを贈った方は、あなたを大切に想っているのですね」
彼の視線は、さっき修介が髪に挿してくれた、白い花に注がれている。
「…この花ですか?」
「ええ」
短く相槌を打った、眼鏡の奥の瞳がフッとかすかに和らげられて。
黙ったままの修介に視線が向けられた。
「では皆さん、そろそろ参りましょう」
時計をチラリと見やった京橋さんは、何事もなかったかのようにそう言って。
みんなが席を立つ、その音に紛れて、わたしの耳にマスターのつぶやきが届いたのだった。
「…アメリカでは、パーティーに女性を誘う時、クチナシの花を贈るんだよな」