チャプンと水の跳ねる音が、静まり返った月明かりの夜に、小さく響いて溶けていく。
本館から少し離れた、景色の良い山の中。
こういう時くらいゆっくりとふたりで過ごしたい。
そう言って、聡一郎さんが予約していてくれたのは、小さな離れの部屋だった。
窓の外に広がる、湖と月。
それに、客室露天風呂。
「詩季」
ふわりと水面が揺れて、耳元に囁く声が届くのと同時に、背後から腰を引き寄せられる。
「あっ…」
一緒に入ってもいいんですよ?
緊張を押し隠すわたしを試すみたいに、そう言った彼。
タオル越しに伝わる腕の感覚。
触れ合った肌を通して伝わる、お互いの鼓動。
「ふふ。詩季、耳まで真っ赤になってる…」
からかうように、言葉が耳元からうなじを伝い、肩へと下りていく。
素肌に触れる吐息がくすぐったくて、恥ずかしくて。
「っ…聡一郎さんったら…」
思わず身を捩って逃げようとするのに、彼の腕はそれを許してくれない。
顔を背けてため息をつくと、くすっと笑う気配がした。
「そんなに恥ずかしがることですか?もう何度も触れ合っているのに?」
その言葉の指す意味を理解する前に、首元にやわらかな感触と、チリッと小さな痛みが走る。
「っん…ダメですよ…聡一郎さん」
思わず、体が反応してしまう。
声が漏れてしまう。
途端に頭が真っ白になって、一瞬、羞恥心なんて飛んでしまう。
もっと触れたいと思ってしまう。
ごまかせるわけがないのに、それでもやっぱりごまかすようにそう口走ってしまう。
「…あなたが可愛くて…止められませんね」
あなたは本当に意地悪ね。
そうやってわたしをからかって。
「…あ…っ」
さっきよりも強い刺激を感じて、思わず高い声がこぼれ落ちた。
「ダメ…見えちゃう…」
「それなら、見せつければいい」
かき集めた羞恥心を、簡単に壊してしまう言葉。
ずるい。
そうしてわたしの心も体も思考も全部、あなたに委ねられてしまうの。
「聡一郎さん…」
自分でも驚くほど甘くて切ない声を、無意識のうちに唇が紡いで。
振り返って強請るように口付けをする。
「んんっ…」
触れるだけのキスじゃ足りなくて、求めるままに深く絡ませる。
と、ふっと息をついた彼の温もりが離れていく。
「…聡一郎、さん…?」
「こうしていては、逆上せてしまいますね…そろそろ、上がりましょうか」
戸惑うわたしの前で、困ったように彼は眉をひそめて視線を逸らした。