「一成さん…愛してる」
柔らかな温もりが、そう言って髪を梳く。
長い指がそっと、優しく。
その優しさの中に身をゆだねると、君は受け入れるように俺の頭を抱いた。
「…っは…」
暗闇の中に溶ける熱い吐息。
君の温もりが絡みついて、思考が止まる。
孤独感から逃れるように、君の肌を伝う手。
微かに揺れる君の体が愛おしい。
「んっ…はぁ…一成さん…」
柔らかなその胸に顔を埋めて、夢中で強く肌を吸い上げる。
「詩季…愛してる…もっと君をくれないか…」
顔を上げると、君の潤んだ瞳に俺が映っているのが見て取れた。
ふわりと穏やかな笑みを浮かべて、俺を抱きしめる腕が少し緩む。
ゆっくりと屈むように、君の唇が俺の唇にそっと重なった。
人の命を預かるということが、どれだけ重いことなのか。
技術を磨けば磨いただけ、数をこなせばこなしただけ、思い知ることになる。
自分にこの患者を本当に救えるのか。
難しい症例に直面すればするだけ、芽生える不安との闘いの日々。
俺は、神じゃない。
救えない命も、ある。
医者は孤独だ。
孤独とは、恐怖だ。
メスを握る手が震えそうになるのを、必死に堪えている。
「…詩季…っ…」
不安を打ち消すように、ただ君の温もりを求める心に応えるかのように、細い腕が俺を抱きしめる。
甘い君の香りに包まれて、目の前にある君の温もりにぎゅっとしがみついた。
「一成さん…」
吐息交じりの声と共に、君の中にゆっくりと溶けていく。
俺の肩に手を置いて、君の熱い息が降り注ぐ。
背中に感じるベッドの金属フレームが、ひんやりと冷たく心地良いほどだ。
君は、感じているのだろう、俺の不安を。
同じ医師として、君には伝わってしまうのだろう。
医者の立場。
患者の家族という立場。
どちらも経験した君の強さに、弱い俺はどれだけ救われたか分からない。
不安に駆られる度に、こうして君は何も言わずに俺を抱きしめてくれる。
温もりを与えてくれる。
その優しさに、俺は癒されているんだ。
「ありがとう…」
疲れ果てて、まどろみの中に落ちていく君にそっと囁きかける。
「…ん…」
ふっと微かに微笑んで、君の手がきゅっと俺の手を握った。
「詩季には…敵わないな…」
君を幸せにしたい。
守りたい。
もっと、強くなって。
ふと見上げたカーテンの隙間から、月明かりが薄っすらと夜空に淡い光を放っていた。
―End.
2013.2.4