円城寺幸人/学園祭

「メリークリスマス!」

パァンとクラッカーが弾ける音が響き、一斉にグラスを合わせる。

円城寺家のリビングには、Gフェスのメンバーと美影の姿。

クリスマスらしくテーブルに並べられたのは、ローストチキンやピザ。

山盛りのフライドポテト。

それから、大きなホールのショートケーキ。

「ほら、詩季。遠慮してないで食べなよね。じゃないと恵人に全部食べられちゃうよ」

男の子ばかりだから当然なのかもしれないけど。

その食べっぷりに圧倒されて、つい箸が止まってしまうわたしに、美影がそう声をかけてくれた。

「そうだぞ、詩季。遠慮せず食えよ」

「ちょっと恵人!あんたこそちょっとは遠慮しなさいよ!」

相変わらず賑やかなふたりのやり取りを聞きながら、チラリと視線を向けた先。

二階へと続く階段がある。

彼がこの場に来ることがないことは、分かっていた。

分かっていたけれど、会えることを期待していなかったわけじゃない。

ふう、とひとつ息をついた時、隣からそっと声をかけられた。

「…今のうちに行って来たら?」
ハッと顔を向けると、棗先輩が小さく笑みを浮かべて続ける。

「幸人に用事があるんでしょ」

「あ…」

「恵人が戻って来たら厄介だから…ほら、早く」

見ると、恵人先輩は飲み物を取りにキッチンへ立った後だった。


コン、コン。

少し遠慮がちに扉をノックする音が小さく響く。

棗先輩に見送られて、二階へやって来たものの、ドキドキして扉を叩く手が震えてしまう。

思わずきゅっと目をつぶった時、カチャリと扉が開いた。

「…詩季…」

わずかに目を見張った幸人先輩は、すぐにいつもの無表情に戻った。

「あ、あの…良かったら、これ、食べてくださいっ」

緑のリボンのかかった、小さな袋。

差し出したそれを彼が受け取ってくれたのを確認して、わたしはくるっと踵を返す。

これ以上ここにいたら、心臓が破れてしまいそうだったから。

「…待て」

階段を一段、下りかけたわたしの左手を、大きな手がぎゅっと掴む。

強い力と大きな温もりに、ドクンと心臓が揺さぶられる。

「来い」

「あっ…幸人先輩…っ」

ぐいっと腕を引っ張られて、扉の中へ引き入れられた。

トン、と背中が閉まったドアに押し付けられたと思ったら、息がかかりそうなほどの距離に彼の顔があって。

「あいつらにも…渡したのか?」

射るような強い視線に捕らえられて、目を逸らすことができない。

「みんなには…買ったものを渡したんですけど…これは、わたしが…」

声が喉に貼り付いたみたいに、うまく言葉にできない。

そんなわたしの目の前で、彼はふっとかすかに表情を和らげた。

「そうか…」

すっと離れていく体と手。

「あ…」

向けられた背に、思わず声を漏らしたわたし。

一瞬、何が起きたのか、分からなかった。

「…っ!」

気がついた時には、わたしは彼の腕の中にいて。

「俺が本当に欲しいものを…あんたは分かっていないようだ」

唇をなぞるように、ささやかれた言葉。

「せん、ぱい…」

「詩季…俺が欲しいのは…あんただ」

色のない冷たい目が、ふっと穏やかに細められた。

わたしの頬を包む手が、温かくて、心地よくて。

「先輩…」

彼の気配にそっと目を閉じると、柔らかく触れた温もりは、どこまでも優しかった。


―End.

2012.12.20



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