「…なあ。今日、庭で伊吹と何話してたんだ?」
「えっ?あ…見てたんですか?」
久しぶりに訪れた、黒狐の流輝さんの部屋。
さすがに疲れたと言って息を吐き出して。
部屋に着くなり流輝さんはベッドに倒れ込んだ。
いつもキレイに整えられていた部屋は、仕事で使うのだろう、大きなファイルが机に置かれたままで。
スーツはハンガーポールに引っ掛けられたままで。
休む暇もなく働いていたことがよく分かった。
「…クローバーか」
ポツリと流輝さんはつぶやいて、先ほどわたしが水を注したグラスを眺める。
それは昼間、伊吹ちゃんと庭で摘んだクローバーの、小さな花束だった。
「…伊吹が小さい頃、せがまれてよく花冠を作ってやったな…」
「ふふっ。何だか目に浮かびますね」
わたしはベッドに寝転がる流輝さんの隣に体を起こすと。
彼の見つめるクローバーのグラスに視線を移した。
「…流輝さん。知ってますか?クローバーの、花言葉…」
「いや…」
「…『わたしを思い出して』って言うんです」
「……」
昼間、伊吹ちゃんから聞いた話を思い出しながら、そっと隣に視線を戻すと。
顔の上にかかる腕の下の表情は、見て取れなかった。