「…完成」
ふぅと息をついて、わたしはアルバムを閉じた。
表紙に綴られたのは“Wedding“の文字。
ふと視線を上げると、見慣れた写真集の背表紙が目に入った。
わたしと徹也くんを繋ぐ、大切な物。
サントリーニ島の美しい景色を収めた写真集。
目を閉じれば、蘇る。
青と白に彩られた、宝石のような島での、幸せな思い出が。
「…詩季」
不意に名前を呼ばれて、目を開けると。
「わ…」
すぐ目の前に徹也くんの黒い瞳があった。
「…寝てるのかと思った」
ふっとかすかに表情を崩してそう言うと、彼の指がスッとわたしの頬をなぞる。
穏やかな眼差しが、窓から差し込む夕日を反射して。
ふたりで見た、あのエーゲ海を映す美しい夕日を思い起こさせる。
トクンと響く鼓動。
ゆっくりと近づいて来たその瞳に飲み込まれそうで、そっと目を閉じた。
「…っ…」
やわらかな優しい温もりが唇に触れて。
なぞるように、何度も。
彼が何を考えているのか分からなくて、時おり不安になることも、ないわけじゃないけれど。
あの島で、空と海の深い蒼の中で、誓った言葉を思い出す。
わたしにだけ見せてくれる、穏やかな微笑みも。
こうして触れ合う温もりも。
「…徹也くん…愛してる…」
こぼれた言葉をすくうように、重なった口づけが深くなる。