無数の小さな光が織りなす、天の川。
高く澄んだ空を見上げて、まだ冷たい空気をすうっと吸い込むと。
かすかに夏の気配を感じる。
カタン。
“astronomical observatory“と書かれた扉をそっと開けると。
わたしの視線の先。
白衣を着たその人は、振り返ってふっと目を細めた。
「…詩季」
高校を卒業して、2年。
アメリカの大学へ単身、留学した零。
彼の通う大学へ、交換留学生としてわたしは1年ほど前にやって来た。
大学で天文学を学ぶ彼は今、あるプロジェクトに参加している。
大学構内にある、この観測所で、朝も昼も夜も、空を眺めていて。
そんな彼の元を訪れるのが日課になっていた。
残りわずかな留学生活を、少しでも長く側で、一緒に過ごしたくて。
「今日は星がよく見えるね」
「…ああ…ベガとアルタイルがよく見える…」
「そっか…今日は、七夕だもんね…」
彼の手に促されて、そっと隣に腰かけた。
わたしの特等席。
ここから見る空は、広くて。
高い。
「…準備は、進んでいる?」
ポツリとつぶやかれた言葉に、胸がキュッと締めつけられる。
7月。
帰国まであと、1ヶ月。
暗黙の了解のようにお互い口にして来なかったその事実を、彼は初めて口にした。
「…うん…」