時計の針が0時を指す、5分前。
約束の時間よりも少し早く、わたしはツリーの前にやって来た。
わたしの背丈の倍ほどあるモミの木。
白い小さな実をつけたモチーフと、青い電飾が淡く光っている。
「良かった…間に合って…」
少し息を切らせて、急いでやって来たのには、理由がある。
だって、それは。
「…詩季ちゃん?」
不意に響いた、背後から名前を呼ぶ声。
トクンと胸が音を立てるのが分かる。
「亮太くん…」
振り向いたわたしの顔を見て、ふっと栗色の瞳が細められる。
「そんなに慌てて来てくれたんだ…?」
すうっと吹き抜ける冷たい風が頬に当たる。
赤くなっているだろう頬を、彼の指先がなぞって、鼻の頭をちょんとつつかれた。
「トナカイさん…もしかして、早く俺に会いたかったから?」
「…もう。ひどい」
天使さんだったり、トナカイさんだったり。
あなたはあだ名をつける名人ね。
でも、それも、悪くない。
「…あ…」
ふと目に入った時計の針が、カチッと0時を指した。
「亮太くん…お誕生日、おめでとう…」
そう、日付が変わって、12月24日。
クリスマスイブは、彼の誕生日。
彼が誕生日を迎える瞬間を、一緒に過ごしたくて。
一番におめでとうが言いたかった。
「…それで、急いで来たんだ…」
クスリと笑って、彼は小さくありがとうと言った。
「じゃあ…プレゼント、貰っていい?」
「あ…うん。ちょっと待って…」
慌てて手にした鞄を探ろうとしたわたしは、思わずそれを取り落とした。