サアッと吹き抜ける海風がふたりの髪を攫っていく。
幸せで、切ないふたつの星の物語。
空を見上げたままのわたしの肩を、ぎゅっと抱きしめて、息を吐く。
綿毛みたいなふたりの白い息が混ざって、闇に溶けようとした時。
「…あ…」
静かな夜の海に広がる、静かな夜空。
その中を横切る光の屑。
思わず声をあげた、それに反応したかのように、次々と現れたのは。
「流れ星…」
降ってきそうなほどの星空に、降り注ぐ光の波。
そういえば、ニュースで見た気がする。
今日がふたご座流星群を一番よく見られる夜だって。
「…これを詩季と見たかったんだ」
満足そうにそう言って、彼はいたずらっぽくわたしを覗き込む。
「…驚いた?」
「ふふっ…どうかな?」
何となく悔しくなって、わたしもいたずらっぽくそう返した。
七夕伝説も、流星群も。
わたしはいつも驚かされてばかり。
「…敵わないなぁ…」
ぽつりと口からこぼれ落ちた本音。
敵わないよ、あなたには。
だから少しだけわたしも。
あなたを驚かせてあげる。
そっと鞄に手を忍ばせて、取り出したもの。
「…え?」
目の前に差し出されたそれに、彼は目を開いた。
「点灯式で貰ったの。ポインセチアの花言葉…一磨は知ってる?」
流れる星の下で、あなたは何を願う?
「…聖なる願い。この星空にぴったりでしょ?」
「…敵わないな…詩季には」
「その台詞、わたしが先に言ったのに」
「ははっ」
振り返ると、穏やかな優しい瞳と出会う。
「…ありがとう。出会ってくれて。側にいてくれて…」
「ううん。わたしこそ…」
ありがとう。
ここに連れて来てくれて。
星の数ほどの人の中で、わたしを選んで、愛してくれて。
言い終わる前に、ふわりと柔らかな温もりに遮られた。
ずっと、一緒にいられたらいい。
夜空に浮かぶふたつ星が、キラリと瞬いた気がした。
星降る夜に、聖なる願いを…
―End.
2012.11.22