5

サアッと吹き抜ける海風がふたりの髪を攫っていく。

幸せで、切ないふたつの星の物語。

空を見上げたままのわたしの肩を、ぎゅっと抱きしめて、息を吐く。

綿毛みたいなふたりの白い息が混ざって、闇に溶けようとした時。

「…あ…」

静かな夜の海に広がる、静かな夜空。

その中を横切る光の屑。

思わず声をあげた、それに反応したかのように、次々と現れたのは。

「流れ星…」

降ってきそうなほどの星空に、降り注ぐ光の波。

そういえば、ニュースで見た気がする。

今日がふたご座流星群を一番よく見られる夜だって。

「…これを詩季と見たかったんだ」

満足そうにそう言って、彼はいたずらっぽくわたしを覗き込む。

「…驚いた?」

「ふふっ…どうかな?」

何となく悔しくなって、わたしもいたずらっぽくそう返した。

七夕伝説も、流星群も。

わたしはいつも驚かされてばかり。

「…敵わないなぁ…」

ぽつりと口からこぼれ落ちた本音。

敵わないよ、あなたには。

だから少しだけわたしも。

あなたを驚かせてあげる。

そっと鞄に手を忍ばせて、取り出したもの。

「…え?」

目の前に差し出されたそれに、彼は目を開いた。

「点灯式で貰ったの。ポインセチアの花言葉…一磨は知ってる?」

流れる星の下で、あなたは何を願う?

「…聖なる願い。この星空にぴったりでしょ?」

「…敵わないな…詩季には」

「その台詞、わたしが先に言ったのに」

「ははっ」

振り返ると、穏やかな優しい瞳と出会う。

「…ありがとう。出会ってくれて。側にいてくれて…」

「ううん。わたしこそ…」

ありがとう。

ここに連れて来てくれて。

星の数ほどの人の中で、わたしを選んで、愛してくれて。

言い終わる前に、ふわりと柔らかな温もりに遮られた。

ずっと、一緒にいられたらいい。

夜空に浮かぶふたつ星が、キラリと瞬いた気がした。

星降る夜に、聖なる願いを…


―End.

2012.11.22



* #

BACK/45/132
- ナノ -