「…あ。ねえ、あの星は何て言うのかな?きれいな星」
見渡すかぎりの、降ってきそうな星空。
何かを話すわけでもなく、静かな波の音を聞きながら。
後ろからの温もりに身をゆだねながら。
星空を見上げていたわたしは、思わずそうつぶやいた。
「ベガか…詩季もよく知ってる、織姫と呼ばれる星だよ」
「織姫って、冬でも見られるの?」
西の空の端で、ひと際明るく輝く星。
織姫。
七夕伝説で有名な、夏の星。
それがこんな時期にも見られるなんて、知らなかった。
「そう…ほら。ベガからずっと下の方へ行ってごらん。もうひとつ大きな星があるのが分かる?」
「…あ、うん。あれかな?」
「あの星が彦星と呼ばれている、わし座のアルタイル。ふたつとも夏の星だけど、冬でも見られるんだよ」
空の隅、もうすぐ地球の裏側へ消えてしまいそうな位置。
キラキラと輝く星がふたつ。
「織姫と彦星かあ…」
ぽつりと口にして、息をつく。
切ない七夕の恋物語。
「七夕伝説って、世界中にあること、詩季は知ってる?」
わたしの考えていることが伝わったのか、そう尋ねられて。
「ううん。日本だけじゃないの?」
「うん。中には幸せな七夕伝説もあるんだよ」
「幸せな伝説…聞いてみたいな…」
わたしの言葉に、ふっと柔らかな笑みが漏れる。
穏やかな眼差しが空に向けられて、彼はゆっくり口を開いた。
「…フィンランドの小さな村に、仲睦まじい夫婦がいてね。ふたりはいつも一緒にいたんだ」
「…うん」
「でもふたりは亡くなって、ふたつの星になった。とても愛し合っていたふたりは、死んで星になっても一緒にいたくて…空に浮かぶ星屑を集めて光の橋を作ったんだって」
「それが、天の川…?」
「そう…これが、フィンランドに伝わる、七夕伝説」