TRRRR…
「…はい、もしもし?」
高く澄みきった空に、一等星がひと際明るく輝く12月。
夜の帳がおりて、現れたのは地上の天の川。
何十万という星の雫が形をなして。
浮かび上がったのは、クリスマスイルミネーション。
巨大な光のトンネルの先には、まるでクリスタルの石で出来たような、氷の教会が佇んでいた。
この日、都内で開かれたクリスマスイルミネーションの点灯式。
毎年この時期にしか見られない、氷で出来た教会では、実際に結婚式が行われるらしい。
点灯式を終えて車に戻る途中、不意に着信を告げた携帯電話を取り出した。
信号待ちの交差点。
空には、キラキラと瞬く高い星。
すっと冷たい空気を吸い込むと、冬のにおいがする。
電話の相手が誰か、確認もしないまま応答したわたしの耳に届いた声。
『…詩季ちゃん?今、大丈夫かな?』
聞こえてきたその声に、トクンと胸の奥が音を立てる。
「一磨さん…」
行き交う車と雑踏に紛れて、口から漏れた言葉がかき消されていく。
そんなわたしの反応に、一拍置いて、彼は言った。
『…実は今、近くまで来ているんだ』
青に変わった信号の先に、見覚えのある姿が映る。
はっとして立ちすくむわたしに向かって、真っ直ぐに歩いてくる人影。
耳元に携帯電話を持ったまま、電話越しの声がだんだん近くなる。
『詩季ちゃんさえ良かったら…これから詩季ちゃんの時間を、俺にくれませんか?』
カツンと、目の前で止まった靴音。
顔を上げたわたしの目には、穏やかで優しい微笑みが映る。
「…一緒に、行きたい場所があるんだけど…どうかな?」
電話越しじゃない声が降ってきて。
「…はい。喜んで」
わたしはとびきりの笑顔を浮かべてそう返事した。