「Röslein, Röslein, Röslein rot, Röslein auf der Heiden……」
「……シューベルトの『野ばら』だね」
「うん……中学生の時に、授業で習ったの」
シロツメクサの絨毯の上を手を繋いで歩きながら。
秘密の花園のようなその小島の中をゆっくりと歩いていく。
カサカサという音がした後。
「きゃっ」
足元を何かが横切って行って、わたしは小さく悲鳴を上げた。
「リスだ」
「あ……なんだぁ、びっくりした」
ホッと胸を撫で下ろしたわたしを見て、一磨さんはいたずらっぽく笑う。
「詩季は怖がりだよね……ホラー映画も苦手だし。ね?」
「もーう。あの時は本当に怖かったんだから……」
「ハハハッ」
笑い合いながら、思い出すのは、彼の家でWaveのみんなと映画を観た夜のこと。
抱きしめてくれた腕の温もりが蘇ってくる。
雨の夜、ひとつの傘に肩を寄せ合いながら歩いたことも。
「あれから……ずいぶん、時間が経ったんだね」
ふいに横から抱き寄せられて、ポツリとつぶやきが落とされる。
「うん……」
「詩季……」
優しく肩を引かれて、わたしたちは向かい合った。
彼の背には、無数の可憐な白い薔薇の花。
「ずっと、考えていたんだ。詩季と出会って、一緒の時間を過ごして来て……もっと近くで、こうして詩季とずっと一緒に過ごして行けたらって」
「一磨……」
「俺と、結婚してください」
それはあまりにも自然で、すうっと胸に染み込むように、わたしの心の中に入ってきて。
無意識のうちに、頷き返していた。
「……はい」
引き寄せ合うように一歩、ふたりの距離が縮まる。
「死がふたりを別つまで……俺のそばにいてくれる?」
穏やかな彼の微笑みに包まれて、わたしも笑顔を返す。
背中に回された手がわたしをギュッと抱きしめて。
「愛してる……」
その囁きと共に、誓いの口付けが降りてきて、わたしはゆっくりと目を閉じた。
東から昇り始めた太陽が、朝露に反射して、キラキラと世界を輝かせ。
まるで、わたしたちの未来を祝福してくれているかのようだった。
――End.