「わぁ……キレイ……」
「……どう?気に入ってくれた?」
目の前に広がる景色に、思わずため息がこぼれる。
そんなわたしの横から聞こえた声に顔を上げると。
微笑みを浮かべてわたしを見下ろす一磨さんの穏やかな眼差しがあった。
「うん……素敵……ありがとう、一磨」
うっすらとかかる朝もやの中。
わたしたちを包むのは、豊かな緑と、澄んだ青。
初夏の風がサラリと肌に触れる。
ピチャン。
どこか遠くで魚の跳ねる音が響いた。
久しぶりの休日に、彼が連れて来てくれたのは。
静かな湖のほとりだった。
ピチチチチ……
キレイな鳥の鳴き声が辺りに響き渡る。
風の音。
木々の葉ずれの音。
滴り落ちた朝露が水面に波紋を作る音。
そして、オールが水を掻く音。
「……詩季。見て」
静寂の中で、そっとボートを岸へと着けた一磨さんが、そう言ってわたしの背後に視線を送る。
彼に促されるままに後ろを振り返ると、そこには。
湖の真ん中に浮かぶ小さな島。
その一面に咲き誇る、野ばら。
「すごい……」
まるで中世のイギリスの庭園みたいな、緑と白に彩られた美しい小島。
「お姫様。お手をどうぞ」
そこに広がる光景に目を奪われていたわたしの前に、スッと手が差し出された。
先に岸に降り立った一磨さんが優しい笑みを浮かべている。
わたしたちは顔を見合わせてクスクスと笑い合って。
「……はい」
差し出された彼の手にそっと手を重ねた。