「……一磨、ギター弾いてるの?」
映画のエンドロールが流れる中、わたしはふと部屋の隅に置かれたギターに目を留めた。
シンプルなアコースティックは、彼のキレイに整頓された部屋にとても馴染んでいて。
「ああ……番組で触る機会があって。家でも練習したくて、最近買ったんだよ」
フッと優しい笑みを浮かべると。
一磨さんはテレビのスイッチを消して、ソファから立ち上がる。
カタン。
スタンドからギターを持ち上げて胸に抱えると。
ポロン、ポロンと彼の長い指が2、3度弦を弾く。
澄んだ心地よい音が空気に溶け込んでいって。
わたしは思わず口を開いた。
「ねえ……何か、弾いてみせて?」
「えっ?」
「一磨のギター……聴きたいの。ダメ、かな?」
わたしの言葉に、彼の頬がうっすらと赤く染まり。
それを隠すように目を伏せる。
「でも……まだ聴かせられるほどじゃないよ?それでも、いい?」
「うん。聴きたいの。一磨の音……」
「……詩季に可愛くお願いされたら……聞くしかないな」
そう言った一磨さんの表情が不意に真剣なものへと変わり。
真っ直ぐにわたしを見つめたまま、こちらへ近づいて来る。
目の前に立ち止まった彼は、手を伸ばしてわたしの頬に触れた。
「仕事以外で誰かのために弾くのは……詩季が初めてだよ」
「……うん……」
「俺の、最初の観客に……なってくれるね?」
「うん」
じゃあ、と言って彼はわたしの隣に腰掛けて。
組んだ足の上でギターを抱えた後、ビーンと一度、弦の感触を確かめる。
静寂の中、奏でられ始めたのは。
「……When the night has come.
And the land is dark.
And the moon is the only light we'll see〜♪」