「ごめんね……詩季ちゃん」
「え?」
水族館を後にした帰り道、不意に翔くんはつぶやいた。
「せっかく、久しぶりのデートだったのに……」
そう言った彼の横顔は、とても悲しそうで。
タオルで拭いただけの髪とシャツは、まだ湿っている。
「そんな、翔くんのせいじゃないよ。それに……楽しかったから……」
「詩季ちゃん……」
「だって、翔くんと普通のデートが出来たから……」
言っているうちに、何だか照れくさくなって、わたしは俯く。
すると、ギュッと握られていた手に力が込められた。
「詩季ちゃん……ちょっと、ついて来て。行きたいところがあるんだ」
行きたいところがあると、彼が連れて来てくれたのは、一面のコスモス畑。
「わあ……キレイ……」
「うん……前にさ、番組の収録で出かけた時に近くを通ったんだけど。まだ花は咲いてなかったから……詩季ちゃんと来たいと思ってたんだ」
「本当にキレイ……ありがとう、翔くん」
西の空に傾き始めた太陽が、オレンジ色の光をコスモス畑に注いで。
すうっと優しく吹き抜ける、ほんの少し秋の匂いのする風に、花が揺れる。
「詩季ちゃん……」
突然、きゅっと横から伸びて来た腕に肩を抱き寄せられて。
「……翔、くん……?」
驚いて顔を上げると、真っ直ぐに西の空を見つめる、彼の横顔があった。
「オレ、詩季ちゃんのこと、守るから……」
どこか大人びた表情で、そう言った彼の視線が、ゆっくりとわたしに向けられる。
いつも明るい笑顔で、みんなを元気にしてくれる、テレビの中の翔くんとは少し違う。
「何があっても、詩季ちゃんのこと、守るって約束する……」
「……翔くん……」
「だから、ずっと……一緒にいよう」
「……うん」
――End.