バッシャーン!
大きな水飛沫を上げて、華麗に弧を描きながら宙を飛ぶイルカの群れ。
キュキュッと声を上げて、水面から顔を出したイルカが、優しい瞳でこちらに向かって泳いで来る。
「……わあ、可愛い!」
思わず声をあげた時だった。
「きゃっ!」
「うわっ!」
キュウ、という甲高い声と共に目の前のイルカがわたしたちに向かって水を吹きかけて来たのだ。
バシャッ。
「あーあ……やられちゃったね」
とっさにわたしをかばって盾になってくれた翔くんはそう言って。
ポタポタと雫の落ちる前髪をかき上げる。
「……うん。ふたりとも、ずぶ濡れ」
水の勢いの方が強くて、結局わたしも頭から水を被ってしまった。
顔を見合わせて、わたしたちはクスッと笑って。
キュキュッと、背後から再び聞こえた声に振り向くと。
まるで悪戯っ子のように、瞳をキラキラとさせて、楽しそうにわたしたちを見ている、さっきのイルカがいる。
「お前、やったなー!」
そう声をかける翔くんに、嬉しそうにひと声合図を返して、イルカは再びプールに潜り込んだ。
久しぶりに休みが重なった9月のある平日。
わたしたちは水族館に遊びに来ていた。
平日のせいか、人出はそれほどなく、軽い変装だけで正体がばれることもなくて。
水圧で飛ばされた帽子を拾おうと、屈んだその時。
「ねえねえ、あれってもしかして……桐谷翔じゃない?」
「えっ?Waveの?」
そんな声が客席から聞こえて来て。
「やべっ。ばれたかも。詩季ちゃん、逃げるよ!」
「は、はいっ」
慌てて帽子をかぶり直したわたしの手を、グイッと引っ張って、翔くんは走り出した。
力強く繋がれた手の温もりが、大きな背中が、いつもよりずっと近い距離が、翔くんを頼もしく見せてくれて。
わたしは走りながら、心が温かくなるのを感じていた。