「詩季ちゃん……」

どれくらいそうしていたのだろう。

静かな夜の空気をそっと割って、義人くんの真っ直ぐな声が耳に届く。

澄んだきれいな彼の声が、わたしはすごく好きで。

その声が紡ぐわたしの名前を、言葉を、ずっと聞いていたくなる。

ゆっくりと背中に回された腕が、ぎゅうっと強くわたしを抱きしめて。

「……ずっと、こうしたかった……」

髪に埋められた彼の顔。

わたしを抱きしめる腕の強さが、彼の心を伝えてくれる。

途端に、出会った頃の彼の姿が、メロディが、胸を過ぎった。

「義人くん……わたしも……」

彼の背中にそっと手を回して、ぎゅっと抱きしめ返すと。

いつもより少し速いふたりの鼓動が重なり合うのを感じる。

一緒に過ごしてきた時間の中で。

言葉じゃなくても、伝え合える想いがあることを知った。

同じ時間を過ごせる、それだけで何よりも幸せなんだと気づいた。

今感じている温もりが、誰よりも愛しくて。

「ずっと……そばにいてほしい。詩季ちゃん以外、いらないから……」

「義人くん……」

存在を確かめるように、グッと一度強く抱きしめた後。

彼はゆっくりと身体を起こして、わたしの顔を覗き込む。

心の中まで見透かしてしまいそうな強いまなざしに、胸が揺さぶられる。

「結婚しよう」

それはとても静かで、真っ直ぐで。

わたしの心の中にストンと入り込んで、じわりと広がっていく。

何も飾らない、曇りのない言葉だった。

「……はい」

短く頷いて笑みを返すのと同時に、ふわっと唇にやわらかな温もりを感じて。

「……ありがとう……」

そっと囁いて、再び甘くて優しい口付けが降りてくる。

ありのままのあなたの全てを、受け止めるから。

ずっと、この手を離さないでいて。

「二度と……離さないって……誓うから」


――End.


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