仰げば尊しがまだ耳の中にこだましていて。
わたしは熱くなった目元からハンカチが離せないでいた。
「紡ってば……もう、しょうがないなぁ」
少し呆れながらも、優しくわたしを抱きしめてくれる美影。
その目にうっすらと溜まった涙が、キラキラと光っていた。
3年間の高校生活。
その、最後の日。
卒業式を終えたわたしたちは、たくさんの思い出を残して、清嘉学園を去る。
美影とおしゃべりしながら食べたお弁当。
Gフェスの仲間と駆け回った日々。
保健委員になって。
「美影。先に行っててくれる?ちょっと寄りたいところがあって……」
ふと、胸をよぎった大きな背中。
切なくて、恋しくて、会いたくて。
わたしの言葉に、美影はニッコリと笑って頷く。
「うん、分かった。じゃあ先に校門に行ってるよ」
「ありがと、美影。すぐに追いかけるね」
そう言い残して、わたしは教室を飛び出した。
「あれ……ヒロミちゃん……?」
保健室と札の掛けられた部屋に入ると、そこにあったのは、スポーツ紙の表紙ではなくて。
「あ、紡ちゃん。やっぱり来たのね」
「え……?」
「シンちゃんに代わって、あなたに言付け」
わたしの顔を覗き込みながら、ヒロミちゃんは優しい微笑みを浮かべる。
「校門に行ってらっしゃい。待ってるはずよ」
「え……校門?」
「ほら、早く」
戸惑うわたしの背中を、ヒロミちゃんは廊下へと押しやる。
「あ、あの……ヒロミちゃん。3年間……本当にお世話になりました」
廊下に出たところで、わたしは振り返ってヒロミちゃんに頭を下げる。
いつも、わたしの味方を。
わたしの恋を応援して、助けてくれたヒロミちゃん。
「……ありがとうございました」
「紡ちゃん……」
顔を上げると、涙がまた溢れて来て、こぼれそうになる。
そんなわたしの背中を、ヒロミちゃんはそっと、包んでくれた。
「アタシこそ、ありがとう。紡ちゃん。ちゃんと……幸せになるのよ」
「……うん!」