新しい年の始まりに、華やかさを添える装いと明るい喧騒。
そんな賑やかな時間も影をひそめた1月下旬。
冬休み明けの試験も無事に終えて、2年生も残すところあと2ヶ月足らずとなった。
わたしは手元の白い袋に視線を落とす。
その中には、さっき買ってもらったばかりの、ピンクのうさぎのストラップが入っている。
ほうっと吐く息が白く、風にさらわれて消えていく。
見上げると、さわさわと揺れる冬の木の葉と、高い青空。
背後には小ぢんまりとした社が建ち、数人の女の子が楽しそうにおしゃべりしている。
ふと思い立って、わたしはバッグから携帯電話を取り出し、メール画面を開いた。
年末に届いた、ヒロミちゃんからのメール。
そこには、別名を恋の神社と呼ぶ、小さな神社の話しと。
試験の採点に追われて忙しい自分の代わりに、そこで御守りを買って来て欲しいという内容。
そして最後にこう、締めくくられていた。
『PS.シンちゃんとデートして来てね♪』
(……ヒロミちゃんってば……)
照れくささと共に、短いメールの中にヒロミちゃんの気遣いを感じる。
高野先生とは、付き合い始めてからもそれまでとはあまり変わらない生活を送っていた。
それは、やっぱり先生と生徒だから。
その壁がわたしたちの間に見えない壁を作っているみたいで。
でもどうしても、ふたりの関係を守りたくて。
その壁をわたしからは壊せないでいる。
それをヒロミちゃんは、分かってくれているのだと思う。
(ヒロミちゃん……ありがとう)
わたしは返信ボタンを押して、無事に御守りを買えたことを打ち込んだ。
「……キミ、一人?」
送信ボタンをわたしが押したのと、横から声をかけられたのは、同時だった。
顔を上げると、大学生らしい男性が2人、優しげな笑顔を浮かべて立っている。
「あ……あの……」
咄嗟に身構えたわたしに、男性は慌ててこう付け足した。
「ああ、ごめんね。驚かせちゃって。誰かと待ち合わせとか、してるの?」
「あ……」
コクリと頷くのが精一杯で、わたしは心の中で彼を呼ぶ。
(先生……早く来て……)
その時、ブオンと聞き慣れたバイクのエンジン音が響き、それが一気にわたしの目の前へと滑り込んだ。
「紡」
ポンと放り投げられたヘルメットを慌てて受け止める。
彼は被っていたヘルメットを外して、わたしを視線で後ろに乗るように促した。
「……俺のだ」
低い、相手を牽制する言葉がポツリと落とされる。
その瞳は細められ、威圧感に思わず後退りしそうなほどのものだ。
慌ててバイクの後ろにまたがると、彼はヘルメットを被り直して無言のままバイクを発進させた。
「……悪かった」
「……え?」
赤信号でバイクを止めた彼の声が、身体を通して伝わってくる。
「怖い思い、させちまって」
小さく揺れる目の前のヘルメット。
わたしは彼の腰に回していた腕に力を込めた。
「……助けてくれてありがとう……」
クスッと笑う気配と共に、ポンポンと手袋越しに大きな手の感触。
そしてバイクは再びスッと動き出した。