「……逆らうのか?」
間近にある瞳は冷たく、腕を掴む手は痛いほどに強い。
「幸人……先輩……」
掠れた声と共に、手にしていたシャープペンがカランと床に落ちる音が響く。
あなたはこうして時折、毒になって。
わたしを逃れられなくする。
「……泣きそうになってる」
目の前の瞳が、突然フッとやわらげられ、わたしの腕を解放した手が優しく頬を包む。
(……ずるい)
いきなり優しくするなんて。
冷たい仮面を被っているだけだと分かっていても。
その心の中が本当はとても温かくて優しいと知っていても。
あなたはいつもわたしを惑わせる。
「紡……」
わたしの顎をそっと掴む、指先で。
「ずっと俺の側にいると誓うか」
その唇から落とされる、甘く痺れる罠で。
わたしは金縛りに遭ったように、身動きが取れなくなる。
ふわりと空気が揺れて、ゆっくりとふたりの距離が縮まっていく。
温かい腕がわたしを包み込む。
「ずっと俺の側にいろ……これは命令だ」
「先輩……」
それはまるで自分を守るために発せられたような、言葉の棘。
わたしはただ、その瞳を見つめ返すことしかできない。
背中に回されていた大きな手が、わたしの頭を抱き寄せる。
「お前は俺のものだ」
瞳を閉じて、呼吸を奪われて。
あなたの孤独が消えるのなら。
あと少しだけ、どうかこのままで。
霞みがかる意識の中で、あなたに誓うから。
ずっと側にいると。
――End.