「紡。川野さんが迎えに来てるよ」
ホームルームが終わり、帰りの支度をしていると、美影が教室の出入口を指差しながら声をかけて来た。
「紡、帰るよ」
「あ、ナツメ先輩!今、行きます!」
「じゃ、紡。また明日ね」
美影は先に教室を出て行き、準備を終えると私も教室を出た。
ナツメ先輩と歩く駅までの道のり。
途中、学園祭の準備中に何度か立ち寄った公園で陽が傾くまで話しをするのが、付き合い始めてからの日課になっている。
「……っくしゅ」
すっかり暗くなった公園のベンチで、星を見上げていた時。
ふいに、くしゃみが出てしまい、ブルッと身震いした。
「……寒い?」
「あ、いえ、大丈夫です」
私の顔を覗き込んで、聞いてくるナツメ先輩。
笑顔を向けて答えると、そっと手に温かい感触。
ナツメ先輩の大きな手が、私の手を包み込むようにそっと重なっている。
「……こら。こんなに冷たくなってるでしょ。風邪引いたらどうするの?」
黒いまっすぐなその瞳に睨まれ、思わず俯いてしまう。
「……紡が風邪引いたら、こうやって一緒に過ごせなくなるってこと、分からない?」
「えっ?」
「……親が心配する。ただでさえ、寄り道していつも遅くなるのに」
ふわりと、私を抱き寄せて、髪に顔を埋めてくるナツメ先輩。
「……紡は、いつも自分ばっかりしゃべってるって、僕に気を遣ってるでしょ」
(あ……気づいてたんだ……)
付き合い始めても、ナツメ先輩はナツメ先輩。
ふたりでいても、大抵いつも私が話して、ナツメ先輩が聞き役になって相槌を打つ。
そういうスタンスは変わらなくて、慣れて来てはいたけが、時々不安になることもあったりした。
「紡と一緒に居られれば、僕はそれでいいから」
「……えっ?」
「え?じゃないでしょ。……だいたい僕はそんなにおしゃべりじゃないし」
耳元にかかる吐息と抱きしめる腕の熱に私の胸はキュッと締め付けられる。
「……本当は、いつも……帰したくないくらいだ……」
「先……輩……」
少しだけ体が離され、おでこがくっつきそうな距離で視線が合う。
ふわっと優しい笑顔で、壊れ物に触れるように私の頬を包むナツメ先輩の温かい手。
(そんな優しい笑顔……ずるいよ……)
「紡」
甘く優しく囁くように私の名前を呼ぶナツメ先輩。
頬に触れていない方の手が私の手に再び重なり、そのまま指を絡められる。
恥ずかしくなって、目を逸らそうと思うのに、熱い視線に吸い込まれるように身じろぎひとつ出来なくなる。
次の瞬間、唇に暖かいものが触れた。
次第に深くなっていくキスに、ただ身を任せる。
「……今はキスだけで我慢してるけど……」
唇が離れ、ナツメ先輩が意地悪そうな笑みを浮かべて呟いた。
「えっ……?」
「……何でもない。紡の面倒を見れるのは僕しかいない。何があっても離さないから。……覚悟しておいて」
――End.