TRRRR……
深夜。
静かな室内に携帯の着信が鳴った。
わたしはシャープペンを置き、携帯の画面を見る。
『零』
その文字に、慌てて電話を取った。
「は、はいっ」
勢い込んで応答すると、電話越しに彼のクスリと笑う声が聞こえる。
『メール、ありがとう。誕生日……忘れてた』
短くそう言った零は、どこか少し照れているような、そんな気配がする。
「零……お誕生日おめでとう。どうしても一番に伝えたくて……」
『なあ……少し、息抜きしないか』
珍しく彼からの誘いに、わたしたちは勉強の手を休めて、庭に出ることにした。
1月30日、0時過ぎ。
今日は彼の誕生日だ。
「空が高いね」
「……ああ。紡、寒くないか?」
ベンチに並んで腰かけて、わたしたちは澄んで星が綺麗に見える夜空を見上げる。
コートを着て来たけれど、深夜の冷え込みは厳しい。
身を縮めていると、零はわたしの返事を待たずに、グイッと肩を抱き寄せた。
「零……」
「こうしてると、あったかい」
彼の白い吐息が耳に触れて、わたしの鼓動が急激に加速し始める。
「紡……好きだ」
「わたしも……零が大好き」
背後からわたしを強く抱きしめる腕。
ふたりの白い息が暗闇に混ざって溶けていく。
「……零」
そっと顔を後ろに向けると。
すぐ側にあった彼の顔が近づいて、唇と唇が重なり合う。
好きだなんて言葉で、片付けられない。
もっと彼に触れていたい。
溢れる想いは自然と言葉を紡ぎ出した。
「愛してる」
わたしの腰に回された腕に力がこもる。
深くなった口付けに、応えながら、身体から力が抜けていくのを感じていた。
今夜は、梅さんの作ったご馳走で、みんなで祝う最後の誕生日。
だから今だけは、ふたりきりでいさせて。
――End.