「時に……キミを……壊したくなる」
「孝……さ……ん……」
視線を逸らすことを許さない孝さんのまっすぐな瞳が近づく。
そのまま、私は溺れるように彼の腕の中に飲み込まれて行った…。
――――そう。
その日私はトロイメライのPV撮影のため都内のホテルに来ていた。
男女の愛を描いた新曲のPVには、私の相手役として有名な大物俳優を起用。
俳優としての評価はかなり高く、大人の男らしさが漂う、元モデルでもある。
歳は私よりひと回り以上も年上で、その存在感は誰の目も釘付けにさせた。
「はい、じゃあ行くよー!」
監督の合図と共に窓際に彼と向かい合って立つ。
カメラが回り始めると、私はそっと抱きしめられ、彼の顔が首筋に寄せられた。
そのまま……広く露出した肩に唇が触れる。
“大人の恋”が撮影のテーマだった。
そして、無事撮影が終わり、控え室を出た時に、思いがけない人の姿を見つけた。
「孝さん……」
「紡ちゃん。お疲れさま。終わった?」
やわらかくフッと微笑む孝さん。
でもその瞳は鋭い光が宿っていると感じた。
「あ……はい」
「じゃあ、この後は……俺がキミの時間をもらってもいいかな?」
「はい……」
私の返事に頷くと、スッと私の手から荷物を取り、廊下を歩き始める孝さん。
(いつからいたんだろう……)
撮影のことは話していたが、内容が内容だけにあまり見られたいものではなかった。