どうやら足の怪我は軽い捻挫らしく、一通り手当てを終えた高野先生はさっさと出て行ってしまった。
何とかひとりでも歩けることを確認して、脱いでいた制服の上着を着ようとしてふと思い出す。
「あっ。プリントが……」
階段のところにプリントを落として来たままだったのだ。
「安心しろ。プリントは代わりに届けてやる」
「いいんですか……?」
「勘違いするな。アンタのクラスの成績が落ちることは生徒会として見過ごせないだけだ」
その口調もやっぱりいつもと変わらないのに、なぜだか私の心を温かくさせる。
(先輩って、本当は優しいのかな……手当てが終わるまで待っていてくれたし……)
私がひとりでも大丈夫なことを察して、先に保健室を出て行こうとした幸人先輩。
ちょうど扉を開けようとした時、珍しく少し慌てた様子のナツメ先輩が入って来た。
「紡、どうしたの、捻挫したって……幸人?」
「あ……」
その表情が驚きから少しずつ変化していき、幸人先輩を睨みつけるナツメ先輩。
「……どうして幸人が?」
「あ、あの……すみません。ご迷惑おかけして……ありがとうございました」
慌てて私が幸人先輩にお礼を言うと。
一瞬チラッと私の顔に視線を向け、幸人先輩はふっとため息をついた。
「……ナツメ」
「何?」
「お前が慌てるとは珍しいな……そんなに大事なものなら、目を離すな」
「幸人……?」
「だが、例えお前の大事なものでも、手に入れるためなら容赦はしない」