(あ……)

清嘉学園の校門の外。

そこには一人の長身の男性が立っていた。

卒業式にまで白衣姿で現れたその人は、スーツに身を包んでいる。

「高野……先生……」

思わず立ち尽くしたわたしをまっすぐに見つめたまま。

彼はフッと表情を和らげる。

それは、わたしの大好きな、優しい微笑み。

「……校門から出たら……もう、先生はやめろ」

「えっ……?」

「そこを出たら、もう……先生じゃねぇ」

「あ……」

その言葉の意味すること。

そして、わざわざスーツに着替えた理由。

それに気づいて、わたしの視界は一気に歪んでいく。

流れ落ちる涙と、胸いっぱいに広がる寂しさ、切なさ、そして喜びと幸せ。

言葉に出来ない想いが溢れて、足がすくんでしまう。

「紡」

不意に、彼の低く響く声が、わたしの名前を呼んだ。

周辺にいた数人の生徒たちが、その声にこちらを振り返る。

「早く来い」

優しい言葉が、地面に貼り付いていた足を解放して。

わたしはそのまま校門を走り抜け、彼の胸の中に飛び込んだ。

しっかりとわたしを受け止めてくれる、力強い腕。

「……卒業おめでとう。紡」

「真也……さん……」

「やっと、お前を抱きしめられる」

「……はい」

「今日からは、先生と生徒じゃねぇ。……紡、愛してる……もう、離さねぇぞ」

「……離さないでください……」

青空と今にも花開きそうな無数の蕾の下。

ふたりは、今。

スタートラインに立ったばかり。


――End.




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