「ほら」
12月25日、クリスマス。
高野先生は昨日保健室で言ってくれた通り、家の前までバイクで迎えに来てくれた。
ポンと投げられたヘルメット。
(あれ……これ……)
真新しいそのヘルメットは、ピンクのラインが入った女性向けのもののようだ。
「……買ってくれたんですか?」
わたしの言葉に高野先生はフッと笑ってサンバイザーを上げた。
「ああ。お前を乗せるのに必要だからな」
そう言うとわたしの手からヘルメットを取り上げ、わたしの頭にかぶせてくれる。
「……ありがとうございます」
わたしは何だか恥ずかしくなって、俯いたままバイクの後ろにまたがった。
(今は……生徒じゃなくても、いい、のかな……)
嬉しくて、くすぐったくて、幸せで。
目の前にある大きな背中にギュッと抱きつく。
いつも、先生と生徒でいる分、今日くらいは。
堂々と恋人同士でいてもいいよね。
そんなわたしの気持ちに答えるように、高野先生の手がわたしの腕を掴んで、グッと引き寄せた。
「……行くぞ。しっかり掴まってろ」
グオン。
バイクのエンジン音が響く。
わたしはその背中に顔を埋めるようにして、流れ始めた景色を見つめるのだった。
「寒くないか?」
「……大丈夫です」
「嘘つけ」
高野先生が連れて来てくれたのは、前に一度来たことのある海岸だった。
真っ赤に燃える太陽は、すでに半分海に沈んでいて。
頬を撫でる風は冷たい。
強がってみせるわたしの肩を、先生はグイッと抱き寄せて暖めてくれる。
こんな些細なやり取りさえ、わたしには十分に幸せだった。
「紡」
「……はい?」
しばらく海を眺めていた先生は、ふいにわたしの名前を呼んだ。
顔を上げると、フッとやわらかく、その目元がゆるむ。
「……あったかいな」
わたしの肩に回された腕に力がこもった。