こそこそと何かつぶやく声が聞こえてきて、わたしはうっすらと目を開けた。
視界に入ってきたのは、白い天井と白いカーテン。
(あ……そっか、保健室……)
昨日から少し風邪っぽいなと思っていたわたしは、今朝学校に着いてから急に気分が悪くなり、保健室で休んでいたのだ。
ぼんやりする意識の中で、カーテンの向こう側の話し声が聞こえてくる。
「……もう、シンちゃんったら。女の子にとったらクリスマスは一大イベントなんだから。ちゃんと紡ちゃんにプレゼント用意してあげなさいよ」
念を押すようにそう言い残して保健室を出ていったのは、ヒロミちゃんだった。
(ヒロミちゃん……ありがとう)
一昨日、わたしはヒロミちゃんにクリスマスの予定を尋ねられたことを思い出す。
『特に予定は決まっていない』
そう答えたわたしに、ヒロミちゃんは不満げな表情を見せた。
クリスマス。
普通の恋人同士なら、デートをしたりするのだろう。
カタ。
静まり返った保健室の中、高野先生が椅子から立ち上がる気配がする。
薄いカーテンを隔てたその向こうに先生がいる。
(こんなに近くにいるのに、彼女である前にわたしは生徒なんだ……)
その時。
ふわりと白いカーテンが揺れ、高野先生がこちらに近づいてきた。
(わっ……!)
わたしは慌てて目を閉じて、寝たふりをする。
「……紡」
スッと伸びてきた温かい手がわたしの頬に触れた。
「起きてるんだろ?……明日の夕方、迎えに行くから……」
小さく落とされたつぶやきが近づいてきたと思った瞬間。
(あ……)
頬にやわらかい感触。
高野先生はそれだけ言うと、静かに保健室を後にした。