『柳瀬流輝と・・・・詩季のひいじいさんの絵についてだ』 「ここは・・・・」 「昔、一緒によく遊んだ公園だよ。覚えてるだろ?」 「・・・・」 「強引に連れ出して悪かったけど、2人きりで話したかったんだ。詩季」 達郎にぐいっと肩をつかまれる。 「ほんとにブラックフォックスについて、何も知らないんだな?」 「・・・知らないって言ってるでしょう?なんでそんなこと聞くの?」 「おまえの博物館から絵画が盗まれただろう?いまだに証拠はあがらず、捜査は手詰まりになってる。オレはその後、独自のセンからある情報を得たんだ。詩季のひいじいさんの作品が、闇ルートで盗まれたって」 「・・・・・」 「被害届は出てないから、オレが個人的に調べてるだけだ。それがブラックフォックスによる犯行かどうかも分からない・・・。ただ、同時期におまえは柳瀬って男と付き合い始めた。オレは・・・仕事とは関係なく、個人的におまえが心配で、あの男について調べた。それで分かったんだ。柳瀬のひいじいさんは、おまえのひいじいさんと親友だったって」 「・・・・・」 「おまえが博物館でブラックフォックスに遭遇してその後、ひいじいさんの絵画が盗まれて・・・おまえが付き合いだした男は、ひいじいさん同士、繋がりがあった・・・。これは偶然なのか?」 「・・・・・」 ここで何か喋ったら、矛盾をつかれるかもしれない。 今は沈黙を貫くべきだ・・・。 「あいつはブラックフォックスと関わってるんじゃないのか!?」 「・・・ロクな証拠もなく、適当なこと言わないで!」 「おまえ、犯罪者をかばってるんじゃないだろうな!?」 「違う!」 私はキッと達郎をにらみつけた。 「離して・・・・タクシー拾って帰るから」 「待てよ!そんなにあいつがいいのか!?」 達郎に強く肩をつかまれる。 「・・・・痛いよ・・・」 「ゴメン・・・」 「達郎」 私はまっすぐ達郎を見つめた。 「私は流輝さんが好きなの」 「そんなにアイツがいいのか!?・・・・あいつが・・・・汚い犯罪者でもか!?」 「・・・!汚い犯罪者なんかじゃないよ!」 「そうだ、勝手に濡れ衣を着せるな」
「り、流輝さん!?」 「おまえ・・・・・・」 「あんたが納得いくよう、説明してやるよ。・・・・でもその前にメールしとく。無事に詩季が見つかったって」 流輝さんが携帯を取り出して、メールを打った。 「よし完了。それじゃ、説明するぞ」 「・・・・・」 「オレは国立博物館の盗難事件を新聞で知った。新聞には『女性職員が犯人に遭遇したが、気丈に対応した』と書いてあった・・・・。あんたの妹の記事だよ」 「・・・・・」 「オレは興味を持って、その女性職員の名前を調べた。官僚のオレにとては、たやすい事だからな。名簿で詩季の名前を見て、思い出したんだ。オレのひいじいさんがよく話してた親友のひ孫の名前だって」 「それで実際にひ孫か確認したくて、詩季に近づいた。最初はたしかに興味本位だったよ・・・。でも詩季のことを知るうちに、本気で恋に落ちた。以上がなれそめだ・・・納得したか?」 「・・・・」 「刑事さん」 流輝さんがまっすぐに達郎を見つめた。 「そんな妄想膨らませてるヒマがあったら、証拠やアリバイを調べたらどうだ?オレの行動を詳しく調べろよ。話はそれからだろ?」 「それは・・・・」 「そうか、もう調べたんだな。それで一切証拠は見つからなかった・・・。そうだろ?」 「・・・・」 「あんたは、どうにかしてオレと詩季を引き離したいんだろ?だったら妄想話を持ち出すんじゃなく、実力で勝負しろよ」 「おまえに・・・何が分かる!!!」 バキッ!! 達郎が流輝さんの顔を殴りつける! 「流輝さん!」 「詩季、おまえは引っ込んでろ。・・・殴って諦めがつくなら、好きなだけ殴れよ」 「くそっ・・・・・!」 バキッ!! 「おまえ・・・・なんで抵抗しないんだよ!?」 「こんなんじゃまだ諦めつかないだろ。なんせ、ガキの頃から惚れてるんだからな」 「・・・・・」 「それにこいつ、最高にいい女だし」 「オレは・・・オレは詩季を守りたくて・・・。詩季を悪いやつから守るんだって・・・。それで刑事になったんだ・・・・」 達郎に目から涙があふれる・・・。 「詩季を守るのが、オレの役目だって・・・」 流輝さんがしゃがんで、達郎の肩に手を置いた。 「その役目は、オレが責任もって引き継ぐから。何があっても詩季を守って、幸せにするから」 「・・・・・・」 「心配するな。オレはこう見えて、責任感は強いんだ」 「達郎」 「詩季・・・」 「達郎・・・あのね?私はずっと、恋に臆病だったの。奥手とかいってたけど、ほんとは傷つくのが怖かったの」 「・・・・」 「でも、流輝さんに出逢って、勇気を出してぶつかってみようって・・・自分の弱さを乗り越えてみようと思ったんだ」
その時、 「流輝、大丈夫か?」 「詩季ちゃん、ここにいたんだな!」 「よかったー!無事に見つかって!」 「な、なんでみなさんがここに・・・!?」 「おまえがパーティー会場から消えて、目撃情報からこの刑事さんが連れ出したって分かったんだ。それで蘭子ちゃんに聞いたんだよ」 「兄貴が行きそうな場所に心当たりはないかって子供の頃の思い出の場所とか、何ヶ所かな。それでみんなを呼び出して、手分けして探してもらった」 「それより流輝、おまえ顔にケガしてんじゃん!?」 「ああ、これは・・・」 「ひょっとして、この人に殴られたの!?」 「なんだと!よし、オレが相手してやる!かかってこい!」 「あのなぁ・・・いいトシして不良のケンカじゃねーんだよ」 「いいんだよ。オレが好きで殴られたんだから」 「好きで殴られた???」 「ともかく、流輝を殴ってタダで済むと思うなよ!!」 「わかったから、落ち着け。そうカッカするな」 達郎がじっと流輝さんを見上げる・・・・。 「おまえ、いい仲間に恵まれてるんだな」 「ああ・・・・こいつらは最高の仲間だよ」 その後、私は流輝さんの車で黒狐に向った。
「ごめんなさい、ほんとに・・・」 「おまえが謝ることじゃないだろ。それに、あいつも多少はスッキリしたんじゃないか」 「達郎のこと、怒ってないの・・・・?」 「べつに。同じ女に惚れた者同士だし・・・」 「それに、あいつは詩季にとって大事な幼なじみだろ?」 流輝さんが、ぽんっと私のヒザに手を置いた。 「あと、安心しろ。ブラックフォックスは証拠は一切残さない。それに、いざというときのアリバイも用意してある」 「そうなんですね・・・」 「じゃなきゃ、おまえを仲間に誘ったりしねぇよ」 その時、流輝さんの携帯が鳴る。 「もしもし?拓斗か・・・。なんだって!?・・・ああ、わかった。詳しくは黒狐に着いてから聞く」 電話を切って、流輝さんが私を振り返った。 「三枚の暗号が解けたらしい」 「・・・・・!」 「絵の裏に書かれた暗号は、日本のある場所の住所を指していたそうだ」
数日後、私と流輝さんは暗号の指していた場所を訪れた。 緑深い山奥に建てられた、古い洋館。 (ひいおじいちゃんは、ここを『椿姫肖像画』の隠し場所に選んだの・・・?) 「今は誰も住んでないようだな」 「ひいおじいちゃんは、この館のどこに『椿姫』を隠したんでしょう?」 「見ろよ、地下に続く階段がある」 「これは・・・・!」 地下室には、大きな金庫が置かれていた。 「おい、見ろよこの仕掛け」 「指紋照合で開くようになってるんですね?」 「ああ。あの時代にこんな仕掛けを作るなんて、おまえのひいじいちゃんはやっぱり天才だったんだな」 「・・・・・」 この中に、ひいおじいちゃんが私に遺そうとした『椿姫肖像画』が眠っているの・・・? 私はそっと、金庫の仕掛けに人差し指をのせた。 しばらくして、 ガシャーン!! 大きな音をたてて、金庫の扉が開く! 「これが・・・・」 「・・・・椿姫肖像画なんだな」 色とりどりの花が咲く庭で、1人の女性が右手を延ばして微笑んでる。 その右手の薬指に光っているのは・・・・。 「ひいおじいちゃんが私に遺してくれた指輪・・・」 「あの指輪は、2人の婚約指輪だったのか」 自分でも思う。 この女性は私に良く似ている。 『桜』『鈴蘭』『花水木』『椿姫肖像画』・・・ 4枚の絵は、ひいおじいちゃんとひいおばあちゃんの愛の軌跡だったんだ。 「キャンパスの裏に文字が書かれてるな」 流輝さんが絵の裏の文字を読み上げた。 「『十年の時を越え、ここで君に再び巡り会えたことを幸福に思う。永遠の愛を誓って』」 「・・・ひいおじいちゃんとひいおばあちゃんは、ここを約束の場所に選んだんですね」 十年の時を越え、困難を乗り越えて、ここで再会を果たしたんだ・・・。
「詩季、庭に出てみないか」 「絵に描かれてたのと同じ庭だな」 私達は手を繋いで、花々の咲き誇る庭を歩いた。 「『わが運命は君の手にあり』・・・椿の花言葉だよ」 わが運命は君の手にあり・・・・・ 「詩季」 流輝さんが立ち止まって、私の右手を握りしめた。 「オレの運命もおまえの手の中にある。・・・・おまえに出会って、オレは新たな人生を始めることができた」 「流輝さん・・・・」 「勇気を出して、壁を乗り越えようと思うんだ」 流輝がポケットから小さな箱を取り出した。 「言っとくけど、盗んだものじゃなくて、ちゃんと買ったんだからな」 「えっ・・・・?」 「しかも、さんざん悩みまくって」 「・・・・・!」 美しい緑の石のついた指輪・・・・・ 「エメレラルドですね・・・・?」 「ああ・・・ダイヤモンドじゃなくて、エメラルドを選んだのは詩季が他の女とは違う、特別な女だからだ」 流輝さんにまっすぐ見つめられる・・・・。 「受け取ってくれるか?」 「・・・・・はい」 流輝さんが私の右手をとって、薬指に指輪をはめた。 「やっぱり似合うな。エメラルドは『知によって幸福をつかむ石』って言われてるんだってさ・・・。詩季にピッタリだろ?」 「・・・・・・」 感激しすぎて、言葉が出ないよ。 言葉のかわりに、次から次へと涙があふれる・・・・。 「うっ・・・ひっく・・・・」 「泣くなよ」 「だって、嬉しくて・・・指輪も嬉しいけど、流輝さんが私のためにこの指輪を選んでくれたのが嬉しい・・」 「おまえこそ、オレを選んでくれてありがとな」 流輝さんが、そっと薬指の指輪に口づけた。 「永遠の愛を誓うよ・・・・・。ずっとオレの特別な女でいてくれ」 それから、私達は見つめ合ってキスを交わした。 永遠のように、長い長い誓いの口づけ・・・。 一度唇が離れても、流輝さんはまだ許してくれない。 いとおしそうに私を見つめて、また流輝さんは目を閉じる。 息継ぎをする間もなく、流輝さんの温かくて柔らかいものが、再び私の口を優しくふさいだ。
流輝さんが窓を開けて、部屋に風を通した。 「古ぼけてるけど、居心地のいい部屋だな」 「そうですね。時間がゆっくりと流れてるみたい・・・・」 この部屋のソファに座ってると、穏やかで落ち着いた気分になれる・・・。 「きゃっ!」 いきなり、流輝さんにお姫様ダッコされる! 「やっぱり、ソファよりもベッドの方がやりやすいだろ」 「や、やっぱりって何ですか!?」 「イヤか?」 流輝さんにじっと目を覗きこまれる・・・。 「ううん・・・・イヤじゃない」 それから、そっとベッドの上におろされた。 「・・・・2回目ですね。こんな風に抱き上げられるの」 「ああ、軽井沢のパーティーのときも抱き上げたな」 「私、重かったでしょ?」 流輝さんが、優しく私の髪を撫でた。 「いや、思った以上に軽くて・・・それに、柔らかくてドキッとしたよ。女の子だなって思った」 「・・・・ほんとに?カタブツで仏頂面で色気が無くても?」 「オレは始めから、詩季を女の子として見てたよ」 そのまま、ゆっくりとベッドに押し倒される・・・・。 「もっと体の力抜けよ」 「でも・・・恥ずかしくて、緊張しちゃって・・・」 「大丈夫だから・・・怖くないから」 流輝さんが私の前髪をかきあげながら、呟いた。 「それに、オレも緊張してる」 「そうなの・・・?」 「ああ・・・生まれて初めて、本気で好きな子を抱くんだからな」 「んっ・・・・!」 首筋に甘くキスされて、思わず声が漏れてしまう。 「んんっ・・・・・!」 私は慌てて、手で自分の口を塞いだ。 「この手、邪魔。どけて」 「でも・・・・」 「いいから、もっと聞かせろよ」 「んっ・・・・」 「おまえ、やっぱ意外とソソるよなー」 「ひ、ひどい・・・!意外ってなに・・・!?」 「なんだよ、褒めたつもりなのに」 「褒め言葉になってませんよ!」 「詩季」 「また新たに学んだよ。こういう事は、 真剣に惚れてる女だから嬉しいんだって」 「単なる性・欲じゃなくて?」 流輝さんがため息をついて、私の胸に顔をうずめた。 「・・・あの言葉は忘れろ」 「ふふっ、忘れませんよ!かなりのインパクトだったもん」
ほんとに、流輝さんとの出会いは衝撃だった。 今まで会ったことのないタイプの男の人で・・・『だったら、面倒くさい女だな』 あんな風に言われて、「この人に近づいちゃいけない」って自分に言い聞かせてた。 それでも、好きになるのを止められなかった。 『ダメだな・・・そばにいると、気持ちが抑えられなくなる。もうおまえには近づかないようにするよ』 遠ざけられても、どうしても諦めることができなかった。 でも、今、心から思う。 好きな人と想いが通じ合うのは、奇跡のようにすばらしい事なんだって・・・。 「・・・昨日、オヤジに電話したんだ。会ってほしい人がいるって。オヤジは一言、『わかった』って言ってた」 「そうですか・・・」 「それから、秘書がこっそり話してくれた。オヤジは毎年、結婚記念日に母さんの墓参りに行ってるって」 「・・・・」 「オヤジが母さんにしたことは許さない。ただ・・・オヤジなりに後悔の気持ちはあったのかもな」 流輝さんが私を抱きしめたまま、小さな声で囁いた。 「なんだか、このまま眠っちまいそうだ」 「眠っていいですよ」 「起きたとき、そばにいてくれるか?」 「もちろん」 「じゃあもう寂しくないな」 その言葉に思わず胸が締め付けられる・・・。 「うん、もう寂しくないよ・・・。流輝さんはもう、ひとりぼっちの子どもじゃないから」 「ありがとう。オレはずっと1人で生きていけると思ってた。でも、詩季に出逢って分かった・・・。人は愛する誰かと生きたいんだって」 私は愛する人のオデコに、そっち唇をつけた。 「私も流輝さんを守って、幸せにしますから」 「ああ・・・ふたりで幸せになろうな、詩季」
2012/03/09 17:22
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