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ゴンドラを下りると、目の前の壁にオペラ劇場のポスターが貼ってあった。
そのポスターを眺めていると、オペラに興味があるのかと皐月さんが尋ねる。
観たことないので観てみたいと言うと、観にいきましょうと言う皐月さん。
びっくりしていると皐月さんは素早く携帯で電話をし、チケットを手配してくれた。
「ヴェネチアの夜が素敵なものになりそうですね」
オペラ鑑賞にはドレスアップが必要だと言う皐月さんは、ドレスを買いに行こうと誘ってくれた。

ブティックに着くと、皐月さんは次々とドレスを見立ててくれる。
「体のラインがとても、よく映えますよ、きっと、詩季さんにお似合いだと思いますが」と
見立ててくれるドレスはどれも華やかでセクシーなものばかり。
それらを、セクシーすぎて着こなせないと思い、私は可愛らしいデザインの黄色のワンピースを示してこんな感じのものがいいですと伝える。
「…分かりました。詩季さんのお願いであっては、断れないですね。では、そのドレスにしましょうか」
一瞬だけ、表情が暗くなった。
しかし皐月さんはすぐに笑顔に戻り、ドレスをプレゼントさせて欲しいと言う。
いつもでは悪いと遠慮するも皐月さんは引き下がらない。
「私がプレゼントしたいだけなので、是非、受け取ってください」
(皐月さんのお勧めを断って、買ってもらうだなんてなんだか、申し訳ないな…)
「あの…皐月さんが勧めてくれたドレスはもう少し、自分に自信がついたら着させてください」
「…分かりました。では、その手助けを今後させてください」
言葉の意味が分からず、首を傾げると皐月さんが耳元に顔を近づけてくる。
「貴女は、誰よりも綺麗です」
戸惑う私をよそに、皐月さんはにっこりと笑う。
「詩季さんが自分のことを、早く知ることができると思ったので」
「だからって、綺麗だなんて…」
(まだ、皐月さんの声が耳に残ってる…)
思い出しただけで、恥ずかしさで顔が熱くなる。
「もちろん、本当のことしか私は言いませんから信じてくだいね」
結局、皐月さんにドレスをプレゼントしてもらうことになり、そのドレスに着替えて、オペラ鑑賞に行く準備を整えた。

開演まで時間があるので軽く食事をすることに。
いつもおごってもらってばかりだし、きっと高級なお店に連れて行かれるだろうと思い、目に入った小さなカフェに入ろうと提案する。
2人で入ったカフェは家庭的なこぢんまりとした内装で、ドレス姿では少し浮いているように思えた。
「選択を間違えた気がしてきました…」
「レストランに移動しましょうか?」
「いえ、大丈夫です。オペラが開演するまでですから!」
「それならいいんですが…。皆さん、詩季さんのドレス姿に夢中なようで少し妬けてしまいます」
皐月さんが茶目っ気たっぷりに笑いながら言ってくれるから緊張が和らいだ。
「ふふ、拗ねた詩季さんも可愛らしいですよ」
からかわないでと言うも、本当のことだと皐月さんは楽しそうに笑う。
「けれど、これ以上言えば詩季さんのご機嫌を損ねてしまいそうなので止めておきます」
「何を飲みますか?」
「そんなことじゃ拗ねませんよ?カプチーノがいいです」
運ばれてきたカプチーノの香りを楽しみながら、お店でゆっくりするのは今日初めてだったことを思い出す。
「ゴンドラはとっても楽しい時間だったので、すっかり忘れてました」
「私も詩季さんと過ごす時間はあっという間すぎて、足りないぐらいです」
カプチーノを飲もうとした瞬間、おばあさんがテーブルにぶつかって転んでしまう。
その拍子に、手にしてたカプチーノが零れ、ドレスにかかって汚れてしまった。



2012/03/01 12:18


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