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今日は田中先生がこの学校を去っていく日…。
それでも、私の心には不安が降り積もっていた。

(私…まだ、藤堂君の気持ちをはっきりと聞いてない)
(田中先生が去っても、藤堂君がいつまでも田中先生のことを想っていたら…)

 悩むたびに、不安は増えていった。
藤堂君を朝から見かけていない。
今日は寮でも会っていなくて…。

私はことあるごとにぼんやりと、昨日3年生に絡まれた私を守ってくれた藤堂君を思い出していた。
(まさか、あの場所に藤堂君が来るとは思わなかった)
(しかも、抱きしめてくれるなんて…)
(…すごいドキドキしたけど、嬉しかったな…)
 
 榊 「…おーい、○○ちゃん!」
 主人公 「えっ、なに!?」
はっと我に返ると、目の前で榊君がブンブンと手を振っていた。
 榊 「どうしたの?ぼーっとして」
 主人公 「ごめん、考えごとしてて気づかなかった…」
(藤堂君のこと考えてた、なんて言えない…)

 榊 「聞いたよ」
 榊 「田中先生、今日で終わりなんだって?」
 榊 「これでもう邪魔者はいなくなるな」
 主人公 「榊君…」
榊君はまるで励ますように、私に笑顔を向けてくれる。
それに合わせてあいまいな笑みを浮かべていると、突然前の席の龍海君がくるりと振り向いた。
 
 龍海 「…それで、どうするんだよ、お前らは」
 主人公 「龍海君。いきなり、どうするって言われても…」
 榊 「亮二はぶしつけだなぁ、俺も気にはなってるけど…」
 榊 「あとはタイミングの問題だけなんじゃない?」
 龍海 「タイミングねえ…ま、俺にはどうだっていい話だけどな」
 榊 「そんなこと言って、気になってるくせに〜」
 龍海 「うっせえよ!」
(昨日、藤堂君は屋上で待ってるって言ってたけど…一体、どういうことなんだろう)
 
昼休みになって、私は屋上へ行こうと席を立った。
藤堂君は『明日、屋上で待ってる』としか言わなかったけど、待ってるのは昼休みだと確信していたから。
(ちょっと緊張するな…でも、覚悟を決めて行かないと!)
(私だって、藤堂君と向き合いたいとずっと思ってたから)
すでに速くなっている鼓動を落ち着かせるように、何度か深呼吸を繰り返してから廊下に出た。
 
(どうしよう、バカみたいにますます緊張してきた…!)
(心臓がバクバクいっちゃってる…)
私はもうめまいを起こしてしまいそうな身体をどうにか支えて、屋上へと続く階段を上っていった。
 
(…いた)
 主人公 「…藤堂君」
いつもより、少し声が高くなってしまったかもしれない。
もう間違えるはずもない後ろ姿に声をかけると、藤堂君はゆっくりと振り向いた。
 
 藤堂 「…来てくれたのか」
 主人公 「うん。それで、昨日待ってるって言ってくれたけど、どうしたの…?」
 藤堂 「ああ、あんたに言いたいことがあって…」
 主人公 「言いたいこと?」
 藤堂 「ああ…」
 
(もしかして、やっと藤堂君の口からいろんなことを教えてもらえるのかな…?)
田中先生とのウワサの真相、藤堂君の今の気持ち…。
直接、教えてもらいたいことはたくさんある。
聞くのはやっぱり怖い気もするけど、このままなにも知らないよりはずっといいような気がした。
 
(なんかこの間が緊張するよ…)
(ドキドキする…藤堂君、なにか言って…)
 藤堂 「俺…」

藤堂君がなにか言いかけようとした時…。
突然、派手な音を立てて屋上の扉が開いた。

 田中 「…零、やっぱりここだったのね!」
 主人公 「た、田中先生…!」
そこから顔をのぞかせたのは…あろうことか、田中先生だった。
 藤堂 「…なんだよ」
けれど、唐突な登場に藤堂君も戸惑い気味みたい…。
なんて思っていると、田中先生と目が合ってしまった。

 田中 「あら…△△さんもいたのね、ごめんなさい…」
 田中 「今すぐ零に、聞いてほしいことがあるの」
 藤堂 「…悪いけど、今はコイツと話してるから」
(藤堂君…)
そんなささいな言葉がどうしようもなく嬉しい。
 田中 「だけど、零…私、△△さんの前ではっきりと零に言っておきたいのよ」
 主人公 「えっ」
(も、もしかして…田中先生、告白でもするつもり!?)
胸がすごい勢いでざわつき始める。そんな私の隣で、藤堂君は相変わらずいつもの表情だ。

 藤堂 「…なに?」
田中先生は少し間を置くと、まっすぐ藤堂君を見つめた。
 田中 「…零、私…零が今でも好き」
 藤堂 「…………」
 主人公 「…っ!?」
(イヤだ、藤堂君…違う人の告白なんて聞かないでほしい…!)

 田中 「私、やっぱり零じゃなきゃダメなの…!」
田中先生のストレートな告白に、藤堂君は…間を置かずにすぐ答えた。
 藤堂 「ごめん、俺が今好きなのは○○だから」
 主人公 「と、藤堂君…っ!?」
(本当に…!?)
(しかも今、初めて私の名前…呼んでくれた?)
 田中 「ウソでしょう…?零…」
 田中 「…だって、誤解だったのよ、私たちが別れたのは!」
田中先生は信じられないといった顔をして、藤堂君をじっと見つめている。

 藤堂 「ウソじゃない。もう、他のヤツを見ることはない」
 藤堂 「俺にはコイツだけだ」
 主人公 「藤堂君……」
きっぱりと言い切る藤堂君に思わず見とれてしまって、私は一瞬、時が止まってしまったんじゃないかと思った。
(こんな風に言ってもらえるなんて、思ってもみなかった……)

 田中 「どうしてよ…」
 田中 「…私よりその子が好きなの??」
 藤堂 「ああ。……こんなに人を真剣に好きになったのは、初めてだ…」
 藤堂 「もうこれ以上は二度とないと思う」
(……嬉しい…なんか嬉しすぎて、くらくらする…)

田中先生はしばらく呆然としていたけれど、すぐに自分を取り戻すと口を開いた。
 田中 「そう、わかったわ…」
 田中 「…△△さん」
 主人公 「は、はい」
まさか話しかけられるとは思わなくて…。
驚いて私が顔を上げると、田中先生はとても寂しそうな表情を浮かべていた。

 田中 「私、…あなたにヤキモチやいちゃった」
 田中 「私が零に抱きついてる時、見てたでしょ?」
 主人公 「あ、…はい」
(私が交通事故にあう前、偶然見ちゃった時のことだよね…)

 田中 「あれ、私が無理やり零に抱きついただけなの」
 田中 「あまりにしつこかったから、零もあきらめて抵抗すらしなかったみたい」
 田中 「でも、あの後で零には拒絶されてしまったの…だから、安心して」
 主人公 「そうだったんですか…?」
 主人公 「でも…じゃあ、2人でカフェにいたっていうウワサは?」
 田中 「あの日も…体調が悪いから来てって頼んだら、零は優しいから来てくれたのよ」
 田中 「本当は私、元気だったのにね…」
 主人公 「そうだったの?私、すごく気になってたけど…」
 藤堂 「ああ。それだけで、他にはなにもない」
 田中 「全部、嫉妬しちゃっただけなの。…許してね…」
 田中 「…じゃあ、私はこれで」
 田中 「午後からの授業はないから…もうあなたたちとはお別れね」
悲しそうに笑うと、田中先生は私たちに背中を向けた。

 主人公 「田中先生…」
 藤堂 「…紗枝」
先生が扉に手をかけようとしたところで、藤堂君が呼びとめた。
(”紗枝”…そんな風に呼んでたんだ…)

 田中 「零?」
田中先生が少し驚いて振り返ると、藤堂君はいつもの淡々とした表情で別れの挨拶を告げた。
 藤堂 「…もう会うこともないと思うけど、元気で」
 田中 「…あなたたちもね」
最後に、田中先生は私にも笑ってくれて…屋上を出ていった。
 主人公 「…ありがとうございました」
私は短い期間だったけれど、現代文の授業でお世話になったことを思ってお礼を口にした。

田中先生が去って屋上に2人きりになると、私はどうしていいかわからずに…。
その場に立ち尽くしてしまった。

 藤堂 「…○○」
 主人公 「ゆ、夢じゃないよね?」
 藤堂 「…ああ」
 主人公 「冗談…だったりしないよね?」
 藤堂 「…ああ」
そう言いながら藤堂君は、どんどん私に近づいてくる。
私はなんて言っていいかわからないのと、鼓動の早さに自分でついていけなくて、泣きそうになりながらしゃべり続けた。

 主人公 「…ほ、本当に私だけ―」
 藤堂 「お前が好きだ…」
私が話すのをさえぎって、藤堂君は私の頬に手をあててそう言った。
 藤堂 「俺には○○しかいない」
 主人公 「と、藤堂君…」

足がすくんで今にもしゃがみこみそうな私を、藤堂君はゆっくりと優しく、でも強く抱きしめた。
(…今、私は藤堂君の腕の中にいるんだよね…夢じゃないんだよね…)
それから私たちは、お互いのぬくもりを確かめるように、静かに抱き合ったままでいた。

 藤堂 「……○○…今まではっきり言えなくてごめん…」
 藤堂 「俺はあの人が現れる前、あんたが好きだって自分でわかってた」
 藤堂 「けど、あの人が現れて…正直、複雑な気持ちになった」
 主人公 「…まだ、好きだったの…?」
 藤堂 「いや、そうじゃない」
 藤堂 「ただ情が移っちまったっていうか、とにかくあの人のことをムシできなかったんだ」
 藤堂 「けど、それが恋愛感情じゃない気もずっとしてて…」
 主人公 「そう…」
 藤堂 「あんたが事故にあったって聞いた時、はっきりわかったんだ」
 藤堂 「…あんたのことだけが心配で、あんたのことだけを考えてる俺がいた」
 藤堂 「だから…中途半端な気持ちであんたに接するのはいけないと思ってたけど、それが余計に苦しませたかもしれねえな…悪かった」
 主人公 「…藤堂君」

(そっか、藤堂君も私と同じ気持ちだったんだ…)
(大切に想い合っていたからこそ、すれ違ったりしちゃったんだね…)

 藤堂 「……零でいい」
 主人公 「え?……なに?」
 藤堂 「…だから、俺のことは零でいい」
 主人公 「とうっ…えっと……零」
私が照れながらも笑ってそう呼ぶと、藤堂君はとても穏やかで優しい表情で微笑んだ。

 主人公 「…最近、ずっと零の気持ちがわからなくて…」
 主人公 「つらかったけど、私も…零が好き…すごく好き!」
 藤堂 「…ずっと俺の傍にいて欲しい…」
そう言って零はさらにきつく抱きしめてくれた。

 主人公 「ねぇ…これからは遠慮みたいなの、なしにしよう?」
 主人公 「私、こうやって正直に話してくれるのが一番うれしい」
 主人公 「上手い言葉じゃなくて、零らしいそのままの言葉でいいから」
 藤堂 「ああ…ありがとう」
 藤堂 「○○…」
零が静かに私の名前を呼んで…ゆっくりとお互いの唇が触れ合った。
そっと肩に添えられている零の手のひらからは、あたたかい感触がして…。
今までの不安を一気に消し去っていくみたいだった。

 主人公 「零…」
 藤堂 「…ん?」
 主人公 「好き…」
私はなんだか込み上げてくる気持ちを抑えられなくなって、たまらずにそのまま零に伝えた。
それと同時に涙が一滴、頬を伝っていく。

 藤堂 「…なんで泣くんだよ」
零の指が優しく涙をぬぐってくれる。
 主人公 「そんなの、わかんない」
 主人公 「でも…なんか、ほっとしちゃったっていうか、嬉しいっていうか…」
 藤堂 「○○…今まで不安にさせちまった分、これからあんたがずっと笑顔でいられるようにするから…」
 藤堂 「…だから、笑えよ」
 主人公 「…うん!」

私がめいっぱいの笑顔を浮かべると、零も微笑んで…また唇が重なった。
不器用な2人のあたたかさがようやく通じ合ったみたいに、とても幸せなキスだった。
まだまだ、これからも障害なんていっぱいあると思うけど…。
…私たちらしく、ゆっくりひとつずつ乗り越えていこう…。
大好きだとお互いの気持ちを伝え合いながら。



2009/12/05 16:46


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