■■■■ 賭の代償
9
「お前ホント見てらんねぇよ、危なっかしくて……。
お前は戦いの中で生きてたせいか、自分の力を過信していつも勝手に突っ走るし。
自分がどれだけ人の目を引き付けてるかなんて全く気づいてないし。
その上あいつのものになったらどんな事されるかなんて全く考えてもねぇし」
「…あの…ロック…?」
「…それに…。あんな風に自分を賭の対象なんかにしたからアイツにあんな事されるんだろ」
あんな事…つまりそれはセッツァーに唇を奪われた事。
ドクンッ
大きく心臓が跳ねて、あの瞬間の事が脳裏を過ぎった。
腕を引かれて、あっという間に奪われてしまった唇。
隙を見せた自分が悪い。それは判っているけれど。
過ぎた事だからもうどうしようもないけれど。
不可抗力で奪われたのが初めてのキスなんてあまりにも惨めすぎて。
しばらく経った今頃になって傷の深さを思い知った。
そんな自分に思わず泣きそうになる。
セッツァーにされた事。
ロックに怒鳴られた事。
短期間で自分の身に起きた衝撃がセリスの中で錯綜して渦巻き、昇華しきれない思いに彼女の顔はみるみる歪んでいった。
泣きたいのを堪え、その思いを吐き出すようにセリスは叫んだ。
「あ、あれは私のせいじゃないじゃない!何でロックに責められないといけないのよ!
私だって…あんな事されるなんて思ってもなかったんだから!
なによ!人の気も知らないで…!私だって傷ついたのよ!
初めてだったんだから!」
「………………え?」
場の空気が一瞬時を止めた。
言い放って、それを聞いた途端驚いたように顔を上げ、目を瞬いてセリスを見つめるロック。
ロックが何故驚いているのか判らず、不思議な面持ちで、同じように目を瞬きながらロックを見つめ返すセリス。
そして暫く経った後、
「………??――――――!!?」
ようやくふと自分が今とんでもない事を口にした事に気づいて慌てて口元を塞ぐ。
けれど後悔してももう後の祭で。
瞬間、火を噴いたように真っ赤になり、大きく手を振って慌てて否定した。
「や…ッ!えっとその…!初めてっていうかキスが初めてとかいう訳じゃなくてね!?
そのあの…………そう!オペラの女優がね!?」
取り繕うように言葉を並べてもしどろもどろで、もはや自分が何を言っているのか判らない程動揺していた。
ロックは変わらず目を見開いたまま取り乱しているセリスを見つめ、ぽつりと言葉を零す。