Regret...

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 世界が崩壊してしまった時、彼は何よりも優先して甦りの秘宝を探し歩き、静かに眠り続ける恋人を生き返らせようとしていた。
 けれどその事を知っても、私の心はそれでも彼を求めた。


 愛してほしいなんて、そんな事を願ったりはしない。
 ただ、彼を見つめ、彼の笑顔を垣間見るだけで私は幸せだった。
 日だまりのような彼の笑顔は、生きる希望そのものだ。
 ケフカを倒し、希望の光に満ちた世界の中、彼の傍で生きる事が出来たらどんなに幸せな事だろう。



 そんな風に思っていた矢先の、彼の告白。



 愛の言葉はなかったけれど、私が彼の傍で生きてもいいという存在価値があるだけでもう十分だった。


 だけど。
 嬉しくて。とても嬉しくて。
 嬉しさのあまり、つい口をついて出てしまったのだ。



「それじゃあ私もトレジャーハンティングに連れていってくれる?」



 本当に何気なく、そうロックに尋ねたつもりだった。
 けれど、今思えばそれが別離の決定打だったのかもしれない。



「女は…連れていけない。」



 ロックは私から目を背けて俯いた。



「どうして?」



 理由を尋ねてしまった私も馬鹿だ。
 理由なんて、わかっていた筈なのに。



「もう二度と…あの時のような過ちを繰り返したくないんだ…」



 そう告げた彼の顔は苦痛に歪んでいた。

 私は言われて初めて自分の軽率さを恥じた。



 そうだ…
 彼は過去にトレジャーハンティングに愛する人を連れていって―――…


 『彼女』にまつわる話を彼に聞いた時の事を思い出す。
 目の前の彼は今、あの時と同じ表情をしていた。


 遠い目。
 その瞳に映すものはきっと…吹っ切った筈の過去への後悔。
 そして、二度と会う事のできない『彼女』の姿―――。




 私は『彼女』のようにあなたを苦しめたりしない。

 私は『彼女』のようにあなたを残して死んだりはしない。




 そう彼に伝えたかった。
 けれど、私がそう訴えたところで彼の意志は変わることはないだろう。


 彼はきっと今後もトレジャーハンターとして生きていく。
 そして、トレジャーハンティングに女は連れて行けないと言った。
 トレジャーハンターとして生きる彼に、私がついて行けばきっと重荷になる。
 それに、私はこの世に贖罪するという責務がある。



 目指す未来が違うのだ。
 私達は同じ生き方はできないのだ。



 どのみち、私のような女が幸せを願う事自体あってはならない事。
 一瞬でも夢を見れた事に満足していればいい。



 …そう納得しようとするけれど。

 

 身体の奥底から沸き上がる悲壮感、虚無感、絶望感。
 自分の中から押し寄せる様々な思いを昇華しきれず、喉が張り付く。
 それでも、きつく目を閉じ、言葉を口にした。



「私は…マランダにいく」



 私は告げた。
 マランダは、崩壊前に私が自ら指揮を取って滅ぼした街。
 そのマランダへ行って街の復興の手伝いをしたいのだ、と。
 彼と目も合わせずそう告げた。
 私が告げた言葉に、彼がどんな表情をするのかを見るのが怖かったから。



「だから…あなたとは一緒にいけないわ」



 完全な、決別の言葉を口にした。





 あなたの重荷にはなりたくないから…。




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