Regret...

4-5



 ひとしきり笑った後、ユゥイは表情を緩めたまま言った。



「そっか。ロックとは付き合ってなかったんだ…」
「ええ…」
「じゃあ…」



 言葉の途中で、ユゥイが私に向き直った。
 先程まで可笑しそうに笑っていた顔が突然真剣味を帯び、こちらをじっと見つめた。
 黒曜石の瞳に見つめられ、それを見つめ返しながら私の鼓動は何故だか急に高鳴り始める。



「じゃあさ、セリスさん…」
「…?」
「私が…」





 バン!!




「「!!?」」



 突然響いた金属音に、飛び上がる程驚いた。
 ユゥイも同じだったらしく、二人同時に音のした方へと視線を移す。
 するとそこには、扉を開け放った状態で佇むロックがいた。


 ドクンッ
 突然鼓動が大きく胸を打ち、私は無意識に表情を曇らせた。



「ユゥイ!お前…こんなとこで何やってんだ」



 言いながらこちらに近づいてくるロック。
 声を荒げてはいないが、その表情は明らかに怒気を含んでいた。
 ユゥイの正面まで来たロックは、ユゥイを鋭い目で見つめて問う。



「お前セリスに何言おうとしてたんだよ?」
「別に。何にも…」


 
 素知らぬ顔してはぐらかすユゥイ。
 そして「…いいとこだったのに」と口を尖らせた。


(ロックは何を怒っているの…?それに『いいとこ』って…?)


 私は二人の態度と言動の意味が解らず、ただ戸惑って二人を見ていた。



「いいからお前とっとと部屋に帰れ。わかったな」
「……」
「わかったな?」
「…わかった…」



 ロックに言われたユゥイは渋々この場を後にし、何かを言いたげにちらりとこちらを向いた後、扉を開いて去って行った。
 それを呆然と見送り、バタンと扉が閉まった後でハタと気付く。



 ―――ロックと二人きり!?



 ドクン、と再び鼓動が胸を打つ。
 心の準備もしていない今、このまま彼とここに居ても気まずくなるだけだ。
 第一、どうしていいのか判らない。
 あまりに唐突過ぎて、何を話せばいいのかも、どういう態度で接すればいいのかもまるでわからなかった。
 滾りそうになる頭をフル回転させながら、必死に自分が置かれている現状を見つめ直し、そして、



「じゃあ私も…」



 もう、一刻も早く彼の前を去りたいという結論に達し、彼に背を向けその場を立ち去ろうとした。
 が。



「ちょっと待てよ」



 右腕を引かれた。



「――――っ!?」



 驚いて、上げそうになる悲鳴を飲み込んだ。
 触れられた部分から、急速に熱が身体を駆け巡る。
 今が暗い夜で良かったと思う。
 こんな赤面した顔を彼に見られたくなかった。



「会ってから全然話してないし…ちょっと話さないか」



 本当は彼の前から去りたい気持ちでいっぱいだったが、イヤとは言えず、仕方なく頷いて応じた。





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