Regret...

4-3



「セリスさんも月を見にきたんですか?」



問われて、私はハッとして我に返った。



「え、ええ…。私も…月が綺麗だと思って…」



嘘だった。
別に月を見に来た訳ではない。
ただ、あの部屋から出たかっただけだ。
隣の気配を気にする自分が嫌だったから。
あらぬ想像をしてしまう自分が嫌だったから。
けれど、今ここにはユゥイがいる。
ロックの傍ではなく、一人で。
その事実に今気付いて、少しほっとする。
それがほんの気休めにすぎない事はわかっているが、それでもそれに縋りたかった。



「…あの…」



ユゥイは手摺りに手を掛けながら私の方へ向いた。



「ロックとは…旅の仲間だったと聞いたんだけど…」



そう問う彼女の瞳は、真っ直ぐに私の瞳を捉える。


(彼女としてはやっぱり気になるところなのかしら…。)


少なからず旅の仲間として彼と行動を共にした時間は長い。
自分が知らない過去に、どのような事があったのかを気にするのは当然だ。
ましてや、たとえ旅の仲間といえども女が彼の近くにいたとなると、気にならない筈がない。

私は彼女に微笑んで見せて、偽る事もなく、事実を口にした。



「ええ。ロックはケフカを倒す為に一緒に旅をしていた仲間です。
 けれど、エドガーもいたしマッシュもいたし、他にもたくさん仲間はいましたよ」
「そうなんだ…」



暗に二人で旅をしていた訳ではないという事を言葉に加えて彼女に告げると
彼女は少し安心したのか、顔を綻ばせて微笑んだ。
「よかった…」と、その後に言葉が続きそうな安堵の表情。
私はそれを見て急激に心が冷めていくのを感じた。
彼女を安心させた事に対して、何故か自分に苛立つ。



もっとロックに対する不信感を煽らせるようなことを言えばよかった?


ロックと昔付き合ってたんですよ、なんて。
ありもしない嘘を並べて彼女を不安がらせればよかった?



…そんな風な事を考えてまた、自分の心に宿るどす黒い闇に取り込まれそうになる。




いつになったらこの闇は、私を解放してくれるのか。
けれど。
迫りくる闇の正体…それは他でもない自分自身。
卑屈になったり妬んだり、そうしたもので膨れ上がった黒い闇は全て、
自分が作り出したもの。
それを知っているから、身動きが取れない。
いつまでもいつまでも追い込んでいく。
自分で、自分を。
自分の心に巣食う闇からは、解放される事などないのだ。



…この先、ずっと。ロックを忘れるまでは。






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