■■■■ Regret...
3-1
【3】
「…マッシュ。俺はセリスしか呼んでいない筈だが…」
「カタイこと言うなよ兄貴。ホントは嬉しい癖に」
国王然と玉座に座る男、エドガーは頬杖を付き、脚を組んで眼前に立ち並ぶ男女を憮然とした表情で見据えて溜息をもらした。
その態度から見るに、年若い陛下様は今日はご機嫌麗しくないらしい。
「…何だってこのクソ忙しい時にロックの面など拝まねばならんのだ…」
「…久しぶりに会ったってのに随分とご挨拶だな、お前…。それはコッチのセリフだ」
会って早々火花を散らす二人を、マッシュはハラハラした様子で見守っていた。
良かれと思って連れて来たはずの彼だったが、今頃、連れてこなければよかった…などと思っているに違いない。
けれどエドガーとロックは、憎まれ口を互いに叩いてはいるが本当に仲が悪いという訳ではなかった。
彼等の仲は随分と長いもので、その始まりはレイチェルがまだ生きていた頃まで遡るのだと以前ロックに聞いた事がある。
リターナーのパイプ役として動いていたロックはエドガーを信頼し、また、エドガーもロックを信頼していた。
それを知っている私は、そんな睨み合う二人と居心地悪そうなマッシュを交互に見ては可笑しくなって口元を緩めた。
隣に立っているユゥイも同じ様に小さく笑っている。
「そういえば…ロックの隣にいるそちらの方は…?」
尋ねてきたエドガーに対して、ロックはもう3度目ともなる紹介をした。
エドガーはユゥイを暫く黙ってじっと見つめていた。
………またこの人は、口説きの文句でも考えているのかしら…。
女と見れば子供から年寄りまで口説かずにはいられない、その手の手練のエドガーの事だ。
こんな綺麗な女の人を目の前にして口説かない訳がない。
―――と思っていたのだが。
「…そうか。私はこのフィガロ城の城主、エドガーだ。宜しく」
いやに素っ気なく自己紹介をしただけで、それ以上の事は口にしなかった。
私は思わず驚いてエドガーを見つめてしまう。
「…ん?どうしたセリス?俺の顔に何か付いてるかな」
「え?…あ、ううん。何でもないの…」
おかしい。
あのエドガーが女性を口説かないなんて。
それも、2年の内に変わったと言うことなのだろうか。
それとも、人の物になっている女性は口説かない性分なのだろうか。
………そんな事は、私には正直どうでもいい事だけれど。
「俺は見ての通り日々公務に追われている。忙しくて相手はあまり出来ないがゆっくりしていくといい。
マッシュ、3人を部屋へ案内してくれ」
「判った」
マッシュに連れられ、玉座の前から立ち去ろうとした時、エドガーが私に声を掛けた。
「ああ、セリス。君はちょっとここに残ってくれないか。話がある」
「え?ええ…」
私は立ち止まり、踵を返して再びエドガーの前まで戻った。
そんな私の姿を、玉座の間から出て行き様にロックが見ていた事など、私は知りもしなかった。