1話
「シノブ、さっき頼んだ書類出来たか?」
前方から問い掛ける声に紙上を走らせていたペンを止めて顔を上げる。書類の山二つに顔を挟まれた先輩――――クラウドさんがこちらをじっと見ていた。
「あ、はい。出来てます。これですよね?」
机の端っこに避けておいた書類を差し出す。受け取った書類に簡単に目を通して、クラウドさんは目を細めて笑った。
「よう出来とるやん。仕事、慣れてきたなぁ」
「ありがとうございます」
「んでな、また頼みがあるんや。コレをボスたちの所に持って行って欲しい」
お褒めの言葉を貰った書類を受け取りつつ、クラウドさんが指差した方を見てみる。そこには、我らがボス――――サブウェイマスターの二人専用の職務室へと続く扉があった。
「はい、わかりました」
「すまんな、昼のコーヒー奢ってやるけん」
先輩方にとってサブウェイマスターの二人はとてつもなく恐ろしい怖い存在であるらしい。
「すみません、書類をお持ちしました。入っても良いですか?」
手の甲で軽く二回扉をノックする。その後に声を掛けると、一拍と時間を置かずに返事があった。
「どうぞ」
「入って」
「失礼します」
ドアノブに手を掛けて捻る。カチャリと軽い音がして、扉はいとも簡単に開かれた。

* * * 

扉を開けた先の職務室は、決して広くはないが、狭くもない。
俺から見て手前に置かれたローテーブルとそれを挟んで置かれたソファーで二人は寛いでいた。
「シノブ!何々どうしたの!?何か用!?」
白ボスが目を輝かせながら「座って!」とソファーの隣を叩く。どうするべきか、助けを求めて黒ボスを見ると小さく頷かれた。お許しが出たようなので、クダリさんの隣に腰掛ける。ぎゅうぎゅうと隣から抱きつかれて何やら居たたまれない気分だ。
「クダリ、シノブさまから離れなさい」
「やだ」
「……クダリ」
「ボクだけシノブにくっつくのが嫌なら、ノボリがこっち来ればいい」
白ボスがそう言うと、黒ボスは何時も通りの仏頂面のまますっくと立ち上がりスタスタと大股で数歩足を進めた。
「……失礼します」
「え、あ、ちょっ」
二人掛けのソファーに大の男が三人座っているという何とも暑苦しい状況だ。しかも、両隣の二人からは幸せそうに抱きつかれている。
「俺、書類届けに……」
「ん、」
「シノブさま……」
二人の呟いた声が地味に色っぽく耳を擽る。何度でも繰り返そう。……居たたまれない。

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