05





『は、』


やられた。
手に持っていた紙をぐしゃりと握った。



急いで家に帰ってきて、ただの杞憂であってくれなんて思いながら兄さんの部屋にまっすぐ向かう。
だが、現実とはやっぱり残酷なものであって、誰もいない、弓矢もない部屋を見た瞬間、俺は何も考えられなくなって、視界が白く染まった気がした。
頭をガーンって殴られた、みたいな。
その後、ふらりとしながらもリビングを覗けば、そこにも望んでいた俺の唯一がいなくて、もう、おかしくなりそう。
そして机に、紙が一枚。それが決定づける。
乱れた髪を直すこともせずにその折られた紙の文面を読む。
書いてあったのは、今までありがとうみたいなお礼や勝手にいなくなってごめんという謝罪、そして愛してるよ、嘉識なんて最後に、書かれてあって、


『、ははっ、俺の方が愛してるってのっ…、』


とにかく、会いたくなった。
そう思うや否やすぐに顔を上げて行動に移す。みすみす危険にさらしてたまるか。
去年誕生日でもらった違う髪紐で髪を改めて縛り直して首にロケットを下げ、大剣"破壊者"と弓矢を持って家を出た。
因みにこの弓、折り畳み式という素晴らしく持ち運び性に長けていて大した邪魔にならなかったりする。
それに対して鞘もない大剣は布でいつも気紛れで巻いたりそのままだったりするがこの武器が一番合うのだからしょうがないだろう。
ひたすらに町中を全速力で駆ける、きっと皆何かが通ったという認識だから、別にバレやしない。
今はとにかく少しでも早く兄さんに会いたかったから。


奴がいるであろう別荘に繋がる山道を登りながら、ふと考えた、兄さんが俺が殺人鬼と知ったらもう終わりになってしまうのだろうか、と。

まあ、答えはぶっちゃけ分からない。
唯一の身内に嫌われたくないというのはあるが、でも彼がいなくなる方がもっともっと辛いし、それなら、とか思っていたら分からなくなったわけだ。だからとて止まるわけにはいかない。
そうこう考えていたらもうすぐ着く地点まで来て、速度をさらに上げる。
息が乱れるくらい必死に走ったのはきっと人類最強との鬼ごっこ以来だな…、なんて恐怖を軽く思い出す。なんでかよくわかんないまま人識に逃げるぞって言われていっしょに逃げたっけ。

最後の無駄に多い階段をかけのぼり、先に何が待っているかなんて知らずに、登りきった、


『兄さん…っ、』


早く、早くと思いながらも静かな敷地内に侵入して、正面を見やった瞬間、




ドゴオオオオンッ――、




『……え、』




目の前の屋敷が、爆発した。



燃ゆる夕焼け空

(屋敷はごうごうと炎をうねらせ、)(炎は空まで燃え上がる。)(頭に響く誰かの笑い声が聞こえた。)





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