04





「いってらっしゃい、気を付けてね。」


いつものように、見送られた俺は何も気づかずに馬鹿みたいに笑ってたっけ。



昼過ぎ、海軍の動向を探るべくナイフ一本忍ばせて海軍基地へ行ってきた俺は、一通り見て何もないことを確認し、帰路に着くことにした、もう三時近くである。
おやつ何にしようかな、とか思いながら林を駆けていたが、足を止めた。


「よう兄ちゃん、随分といいナリしてんじゃねぇか。」


お決まりの台詞を言いながら下卑た笑いを浮かべてこちらに近寄る盗賊。いいなりって何さ、たしかにあんたらよりはマシだと思うけど。
すぐさま周りの気配を感知、目の前の奴等は五人、さらに、六、七、――――――ざっと百人、どうやら俺も賊の間で名が知れてきたようで複数のグループが協力して襲いに来たらしい、ちょっとは考えたようである。は、下手くそな誘い文句だ。
少しずつ囲みを狭めてくるが俺は動かない、どうせなら全員まとめて相手して片付けよう、深"呼吸"しちゃおうかな。


「俺たちがたっぷり可愛がってあげてから売ってやるから、なーんにも心配することはねぇぜぇ?」


そんな俺の考えも知らず、あまりにもニヤニヤしながらキモチワルイことを言うものだから肌が粟立ち頬が引きつった。


『あのさ、勘違いするのはやめて。お前らが俺に勝てるとか万が一にもないから。』


にっこりと笑って言い放てば分かりやすいように何人かが攻撃を仕掛けてきた。
そいつらの首をまとめてナイフでかっさばくと、血色の噴水が沸き上がり、彼らは一気に怯む。こんな奴ら、ナイフで充分。
さて、


『――零崎を開戦する。』


そう告げて、辺りには断末魔がこだました。まあ、"破壊者"使わないのだから、所詮戯言だけど。



暫くして、


「うわああ、あああっ助けっ、」

『ません。』

「ひいっ、」

『おっと、逃げない。』


あとが面倒なんだから、とぼやきながら周りを見渡せば死屍累々の数々が血飛沫で飾り付けられていて、ここだけ空間違うんじゃないかとか考えた、まあそんなわけないが。
結構な"呼吸"になったし返り血を浴びないことに全力を注いでやったのでばれずにいい気分転換になった。
いやさすがに足元のブーツは汚れてしまったから、その辺の川とかで洗い流せばいいやとか考えてナイフの血を払うと、

――ブチリ、


『ん?』


頭から何かが切れたような音が聞こえ、何かがはらりと髪が落ちた。
ばっ、と足下を見てみると、


『うわっ…!兄さんからもらった超大事な髪紐がああああ…!!』


超ショック…、と涙ながらに二つに切れてしまった髪紐を拾う、幸い草の上に落ちたから汚れはなかった。
まあ、帰ったら編むか、ととりあえず服のポケットにしまい込む、これは兄さんから買ってもらった最初のプレゼントなわけでそんな存外に扱うわけないだろ。
しかし、切れた時に、嫌な吐き気というか、ゾワリとした胸騒ぎがした感覚は覚えている。


『嫌な、感じ…、』


呟きながら眉間に皺を寄せずにはいられなかった、拳に力を込め、すぐにそこから離れる。
空を見ると少しオレンジ色に染まってきていた。



痛々しい警鐘の音

(何もないことを願って)(ただひたすら全力で駆けた)





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