02




たとえ劣勢だろうと人の喧嘩にちょっかい出すほど愚かではない。決して相容れない2人が拳と拳をぶつけ合う。
ただ己をぶつけ合うその様子を眺めながらもマグマに溶ける弓が視界に入った。いつか俺のこの憎しみも溶けてしまうのだろうか、それは兄さんを忘れるということか。それは憎しみを忘れるということか。怒りを忘れるということか。
零崎たる理由を、意義を、忘れるということか。
俺を零崎たらしめていた理由に、矛盾が生じたということは、零崎の冠を外すことになるということだ。零崎嘉識は死ぬのだろう。
そんなことを、そんな確信めいたことをぼんやりと思っていたら体に異変が。
徐々に大きくなる体、そして、心臓の位置にぼこっと穴が開き、糸が切れたように意識が途絶えた。こんなところまで再現しなくてもいいじゃないか。


目がさめる。状況変わらず。
俺の体は戻ったらしく、9歳より成長した体。
だぼついていた服はぴったりのサイズになっていて、自分の体が戻ったこと、誰かがあの女性に勝利したことを悟った。
現に岩壁の上にはゾロたち全員集合してるし。てか今更だけど何そのいかした服装。
彼らはルフィに夢中で俺に気づいていないようだ。まあ真下だと見えにくいからね。
目の前の光景は今もまだ殴り合いのままで、1つ変わったといえばゼットのロボットみたいな腕が解除されており、2人とも武装色による拳のぶつけ合いを行なっていることか。
こういう漢の勝負っていうのはよく分からないが、だが時としてその正当性が必要となることは分かっている。それが今だって話。
だから俺はこうして岩壁に寄りかかって見ているだけでいいと思った。

咆哮。 骨の折れる音。 血が吐き出される音。 荒い息づかい。
周りの時間が止まっているような永遠のような時間が目の前で繰り広げられる。
もはや彼らを動かす原動力は意地のようなものなのだろうが、あいにくそこまで突き動かすほどの情熱は俺はまだ知らない。
しかし、いくら情熱あれど長期戦になれば必然的に老いには限界というものがあるわけで。
経験少ない青年と老いを抱えた男はどちらも体力の限界らしくふらつきながら拳を叩き込んでいた。


「俺はっ、俺はやるんだっ!!

―――海賊王に、俺はなるっ!!!」

「―――俺の名はっ、ゼットだ!!」


お互いの拳がお互いの顔面に叩き込まれたのを見て痛そうな光景に思わずを顔をしかめる。
しかしそのあと、とうとう体力ゼロとなったルフィは力尽きたようでゼットの体に倒れこんだ。
時間差でゼットも背中から地面に倒れこむ。
一瞬の間。ルフィが、立ち上がった。


「…俺も、歳だな。この程度のことで体がもう動かねえ。楽しい時間はすぐに終わってしまう。帽子と、俺の命を持っていけ。」

「お前の命なんていらねえ!もう気ィ済んだ!まだやるっていうなら付き合うぞ!」

「いや、…俺ももう気が済んだ。」


そんな会話が繰り広げられる一方。
勝利したルフィの元へ駆け寄ろうとしたクルーの面々と当たり前だが真下にいた俺は遭遇した。


「嘉識…!」

『…二回、同じこと言いたくないんだけどさ。俺はきっとまだ許せないけど、それでももうあんたたちは俺の身内なんだよ。身内に仇なすことはできないからさ、たとえ自分を押し殺すことになろうと、ついて行かせてくれるかい。』

「…てめえを殺してでも、俺たちについてくるのが一番の選択か?」

『それほどまでに魅力的なのが悪い。』

「はっ、後悔すんなよ。」


嘘は、吐いていない。だけど全て話せなかった。
零崎としてもう死んでしまうであろうこと、それは自分を押し殺すとかそんな意味ではなくほんとは文字通り俺の存在が死ぬということ。
人識みたいに別の人格?人生?を持ち合わせていない俺はどうなるのか分からないが。
人識は二重人格とかそういうチープな厨二のような設定というよりは表の世界での顔と言ったら分かりやすいだろう。俺にはそれを作ったことはない。
表は零崎に為った瞬間捨て去った。もう、覚えていない。
結局、つまり、結論を言えば、零崎が死んだら俺のこの肉体を動かす人格がいないってことだ。さっき感情的に吠えた時に聞いたゼットとルフィしかこのことは知らないし、おそらくルフィはああ見えて俺がこう喋ったなら気にしないだろうしそのうちそのまま忘れてくれるだろう。
こういう時に限って勘のいいやつはありがたい。
さてとりあえずこの一件は、と思っていたが。


「―――悪かった。」

『…え、』

「知らぬ存ぜぬで突き通す気はねえ。したことに責任を感じないほど人情が薄いわけでもねえ。筋は通す。」

『いいよ、とは言わない。…けど、その心意気を買おう。』


ずるいなあと言いたかった。そういう先手を打たれたら、俺はこの怒りや憎しみをどこにもぶつけようがないんだから。


矛盾ストラテジー

(効果的な一撃)




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