05
雨が止む。濡れた体をどうする気にもなれない。
息切れがひどく、目眩がしそうなほど頭が熱い。
体じゃなくて思考がぐらつく。
分かってる、もう分かっているのに分からないなんて嘘をついた。
彼等を認めよう、とうに合格していて、彼らはもう俺の身内になっている。だからいっしょにここまで来た。
なのに、それなのに、その身内が身内を間接的とは言え殺した相手だったなんてどうすればいい。
こんな、家戝以外の身内ができたのは初めてで、こんなことが、在ってはならないような偶然が重なるなんて。
「わかんねえんなら、俺と来るか?」
『……着いてきたの。』
「まあな、あいつらはゼファー先生…いや、ゼットのとこに行くってよ。」
お前も行くか?連れていってやる。なんて軽く言う男の真意は見えない。
『ほんと…物好きだねあんた。何が目的。』
「なに、口説きたいだけだ。」
『冗談。』
「冗談のつもりはねえんだけどな。」
思わず笑う。
女性陣に振られたかなんてジョークが喉元で止まる。どうしたいか、どうすべきなのか正しさを問うことはできないが行けば分かるのかもしれない。
行ってダメだったらその時はその時で、行ってどうこうなる可能性があるならば、賭けるしかないのだ。ならば、もう決まっている。
『―――連れていきなよ。』
「上から目線で言ってくれるじゃないの…。まあいい。」
『で、船もってんの?』
「俺の愛車で2ケツでいいだろう?」
『愛車ってチャリなんだ…。』
自慢気に見せてきた自転車を眺めながらタオルを受け取り顔を拭いた。悩むなんて俺らしくないことはしないに限る、まったく笑えない。
殺人鬼がその在り方を揺らがせては、殺人をする意味がなくなってしまい、それはつまり呼吸の意味すらなくしうる。もしかしたら、俺ももう人識のように。
そんな俺にとっておそらく最悪の考えも掠めたが、それはまだ、今ではないだろうと希望的観測を頭の中に留めておく。
とにかく言えるのは、このままじゃ残念ながら悪くないとは言えないことだ。まったく、悪い話だ。ひどい話だ。ハッピーであろうとバッドであろうと物語はエンディングを迎えなければならない。
そのエンディングたる時がこのタイミングならば動くのみ。
晴れた空の日差しが水たまりを輝かせていて、少し気持ちが落ち着いたような気がする。
幕引きの時間
(決着の刻)(終焉の時)
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