# 復活夢版深夜の真剣創作60分一本勝負 様より
お題「こっち向いて」


ピコ、ピピピ 、ピコン。
親指をカーソルの上に滑らせて、液晶に映る敵を睨み付ければ、軌道に合わせてボタンを押す。此処では確か隠し武器があって、更に炎技を発動することで最終武器が手に入る。_ビンゴだ、流石は最終武器。斬撃に合わせて炎が出るのがめちゃくちゃかっこいいし強い。私の磨かれた連打テクを喰らいやがれ。周りの敵を一掃して、残るはボス戦。長い戦いだった、これまで3回のコンティニューをやったんだから、きっと____あ、負けた。
「ず、...ずっるいわ〜!!全属性耐性持ちとか有り!?火力何も意味ないじゃん!!!」
緊張を一瞬にして破壊するどころが、あまりに呆気ない終幕過ぎて何が起こったのかを理解するのに時間が掛かった。だけど、目の前に映ったゲームオーバーの文字に。ゲーム機を片手に持ったまま思い切り背を仰け反らせて脱力していると、背後から「うるせえ」と一言声が聞こえてきた。

少しだけ視線をやると、さらりと流れ落ちた長い銀髪が頬にかかる。擽ったさに思わず顔を顰めて其れを払えば、彼の手元を覗き込んだ。

「いつまでやってるつもりなの、それ」
彼は愛武器である剣の手入れの最中だった。
しゅるしゅるとか、キュッキュッとか。最初は音が心地好くて聞いていたけれど、あまりに終わらないものだからゲーム機の電源を付けたのが三十分ほど前。
つまり、彼が磨き始めた後に私がゲームを始めたのに、私がゲームを終わらせた(厳密に言えば終わらせられた)後でも、この男の剣の手入れは終わっていないのだ。長いにも程がある。
私の言葉を聞くなり、はあ?と心底深いため息を付けば、彼はこう告げた。

「てめー、何度聞かせりゃ分かるんだ?」

「刀ってのは、「一日でも磨かねえとすぐに刃こぼれするからこうした時間の積み重ねが大事なんだ」...あ?」

一言一句揃えて返した私に目を丸くしている彼。いつも同じ事言ってるんだから分かるよと、ふふんと笑いながら返す。きっと凄くムカつく顔をしている事だろう。腑に落ちない顔をした彼は、がしがしと頭を掻くと。「そうか」と一言言うなり私の頭をぐしゃぐしゃと掻き回し立ち上がれば、私は其れを目で追った。

多分、この時間だし。あの方向といえば... ある程度は心当たりがあった。それに、仕事の時は関わらないでおこうというのが私のモットーだから、あまり足を運ばないようにしていた。_だけど。

今日だけは。

そう思えば、気づいたら足を進めていた。
彼の背中越しに少しだけ見えた液晶画面には、私には到底理解できない量のデータが並べられていた。きっと、其れは任務の報告書だとか、その他...私が分からないような事も含められていると思う。
「来るなんて珍しいな」
音は立てずに来たつもりだけど、背を向けたままそう告げる彼に思わず吃驚した。流石は暗殺部隊。
「邪魔だったら戻る。」
「...俺は、珍しい、と言っただけだ。」
何回この人は、私を吃驚させれば気が済むんだろう。
帰ってきた言葉が不釣り合いなぐらい優しくて、でも背を向けたまま言う彼らしさに、思わず笑みが零れそうになる。じゃあお言葉に甘えて、と告げれば。彼の椅子の後ろに、丸椅子をそっと寄せて腰掛け、持ってきた小説の表紙を捲った。

_最後の頁を捲り、ほうっと息をつきながら其れをぱたんと閉じる。面白かった、この人の最新作が楽しみだなあ、なんて余韻に浸りながら時計に目をやると。
いつの間にか日付を越していた。
「餓鬼は寝る時間だぜぇ、」
寝なくていいのかあ?なんて、くつくつと笑いながら小馬鹿にし様に言ってくる彼に。まだ平気、あと2時間はいける、多分。と、そう返す。
へえ、と少しだけ愉快そうに言われるのに少しのムカつきを覚えると、そっと時計の秒針に目をやった。
カチ、カチ、と動く秒針を見るのは好きだ、あんまり人に理解されない趣味だけれど。
カタカタと聞こえるタイピング音も、相まって更にとろんと眠くなってくる。
ずっと続いていた静寂を、切り裂いたのは私の声だった。
でもさあ、と突然切り出したにも関わらず。
「ん、」と返ってきた声を耳に聞けば、彼の背に自分の背を預けたまま天井を見上げた。

「少しぐらいは、こっち向いて欲しいなあ」
忙しいのは分かるけどさ、と小さく付け足せば。テンポ良く聞こえていたタイピング音がピタリと止まった。突然訪れた静寂に、何かやらかした...?言うタイミング悪かった?重要書類をやってしまった?と思考回路をフル回転させていると、長く深いため息と同時に、背にあった温もりが消えた。

「ぇ、あ、_ぎゃっ!!!!」

ぁ、ぇ、と言葉にならないアホらしい声を漏らしながら、身体のバランスを崩し、そのまま彼の椅子に頭を強打した。材質も良く見るからに高そうな椅子だけれど、今回ばかりは話は違う。丁度金具の部分に私の首後ろがクリーンヒットしたのだ。痛い所ではない。私ほどに石頭じゃなかったらきっと気絶していたレベルだ。

「な、何いきなり... 」
ジンジンと響いている部分を押さえながら、其方へと視線を移す。と、その瞬間。彼の左手で顔を抑えられた。義手の使い方間違えてるんじゃないか、はたまた私の扱いが雑すぎるのか。ゴンッと鼻が潰れる音がしたが、その技術の合間から見えた彼の表情に、そして告げられるその言葉に。目を丸くした。

こっちの台詞だ、クソ

「え、」
こっちの台詞?急いで思考回路を巡らせれば、最後に言った自分の言葉を思い出す。「何いきなり」...いや絶対違う。噛み合わなすぎる。どういうこと?え?なんでちょっと頬赤くして、目を合わせようとしないの?_えっと、待てよ

じゃあその前に、私なんて言った?


__________あ。

「ねえ、ねえねえ!こっち向いて!耳赤いよ!!!ねえ!」

「うるせえ!!!!!!!黙りやがれ!!!!!!!!」




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