#復活夢版深夜の真剣創作60分一本勝負様より お題「赤い糸」
ねえ、赤い糸って知ってる? 知らねー、何それ。オークションの品物ン中にありそうな名前。高値で売れる系のやつ? 倒れた標的の胸元から、目当ての物を取り出したながら、隣に立つ彼へとそう聞いてみた。指紋が残らない様に手袋越しに硬い感触の其れを取り出せば。出てきたのは丁寧に保管された、上質な金属製の箱だった。端を埋める小さな煌めきにひゅう、と思わず口笛を吹く。きらりきらりと太陽を反射する其れは、きっと世の中の貴族が欲しがる程の代物だろう。手放すのは勿体ないけれど、任務だから仕方がない。出てきたよ、と後方に居た部下へと投げ渡す。返ってきた言葉に、は〜〜と長い長い溜息を付き、そのまま頭を垂れた。庶民の話なんか知らないのだろう、この王族で生まれ育った王子サマには。 "嫌味ったらしく王子って言うの止めてくんね。正当なる王族だから" 嗚呼、ハイハイ。なんて慣れた言葉を返しながら立ち上がり。隊服の裾についた埃を祓う。 「んで、さっきの何だったの。」 へえ、興味を持つなんて珍しい。と。聞こえてきた声に少し驚いた。朧気な幼い頃の記憶を辿り、思い付いた言葉をポロポロと口に出していく。自分でも曖昧すぎて、言いながら少しだけ先程までの自身を嘲笑した。東洋の言い伝え?よく知らない、出典も何処かも知らないけど。小指に結ばれた赤い糸の先には運命の人がいて、その人は運命の人と結ばれてるんだってさ。 まあ、御伽噺みたいなもんだよ。 そう呟きながら、右の手に視線を落とし。少しだけ其の指を折り曲げれば。糸なんか付いてるはず無いのにね、そうポツリと呟いた。 馬鹿みたいだよね、と最後に呟く。 先程から返事のない彼を不審に思い、ちらりと其 方へ目をやると。茜色の夕焼けを背にした彼は、にい、とその白い歯を見せ笑った。私は知ってる、其れは。やばい事を考えてる時の癖だ。 へえ、なら王子が付けてやるよ。
この気分屋は本当に困る。 彼は片手に私の手、もう片方の手にナイフを持つと、"痛くない様に入れっから、あんま動くなよ"と一言。いや待て、怖いに決まってるだろう。ついさっき標的を殺したナイフじゃんか、と脳内でグルグルと目まぐるしく回ったが。観念し、目を閉じる。 ピッー 少し肌を切り裂く痛みはしたが、あれ、と目を開ける。例えるなら、針に指を刺してしまった時と似ていた。想像していたよりも、よっぽど痛くはなかった。 じわりと滲んできた赤色に、目を奪われていると。 「あ、やった。上手く出来た、切り落としたらどうしようかと思った。」 シシ、といつもの笑い方を続ける彼に。いや待て!!と思わず声を荒らげる。冗談じゃない。任務に支障が出るのも嫌だけど、切断だなんて冗談じゃない。なんちゅう危ない真似をするんだこの男は
「じゃあ、」 「?」 「…やっぱり、いい。」 言葉を出そうとして、其れを飲み込んだ。"早く帰るよ"と、踵を返す。「何それ」「ちゃんと言えよ」と、後方から聞こえるグダグダとした声に、ふふっと笑みを零せば。そのままアジトへと足を向けた。 私もお返しに付けてやる、と言おうとしたけれど。ベルのあの狂気的なスイッチを入れてしまうのは、流石に私でも少し怖気付く。面倒な男だ。 だけど、と。視線を右手に落とせば。先程の痕は本物の糸のように、少し見方を帰れば指輪の様に。其処に主張を放っていた。 あかいいと。 なんて優しくて、愛おしい響きなんだろう。 この痕がずっと消えなければいいのに、なんて。 思ってしまった私も、随分と面倒な女だ。
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