#復活夢版深夜の真剣創作60分一本勝負様より お題「そばにいて」
「スクアーロはさ、どこ行きたい?」
「アホか、それをてめえに聞いてんだろ」
"あ、そっか" 返ってきた腑に落ちる言葉に思わずそう返すと。はあと態とらしい大きな溜息と一緒に「餓鬼の相手は疲れんなぁ」と、これまた大きな声で言葉を続けてきた。目を細めて口を尖らせ、下から睨みあげる様に精一杯不機嫌さをアピールしても。鼻でハッと笑われるだけだ。
一回殴ってやろうかと思ったけれど。どうせまた片手で軽く止められるだけで終わるからやめておこう。 湯気が立つココアにふうふうと息を吹きかけ、こくりと飲み込む。今日はミルクを気持ち多めに入れたから、いつもよりも甘くて美味しい。 いっその事これごとかけてやろうかと思ったけど、ココアが美味しいので止めることにした。 まあ、あの綺麗な髪を汚したくないのもあるけれど。
明日は一応、私たちの記念日だ。月ごとに祝うのはお互い性に合わなくてしたことがないけれど、毎年この日だけは何かをして祝うというのが二人の中での決まり事になっている。 普段、スクアーロの方も仕事の方が忙しいらしいし、かくいう私も正直予定が入ってしまう事はある。だから別にズレても構わないんだけれど、今年は不思議と二人とも予定が空けられた。
"ほんと?" "いや俺も未だ信じられてねえ " でもやっぱりその日二人とも一緒に居られるのは嬉しくて、やったぁと嬉しさに飛び跳ねたのを覚えている。その直後"分かった分かった、だから落ち着け"と片手でベシッと止められた事も。
それでその後"じゃあどこに行こうか"という話になり、スクアーロに行きたい場所を聞かれて、話の冒頭に戻る。
行きたい所ねえ、と見ていたスマホの画面をするするとスクロールしていく。
ここのパンケーキ屋さんも美味しそうだけれど、少し混みそうなのは避けたい。 ここの水族館も綺麗で有名なんだよな、ああでも場所が少し遠いか。またの機会でもいいかもしれないな。
色々と見ていたら目が疲れてきて、休憩するかと一旦スマホの画面を切った。 ううんと後ろに背を反り、体を伸ばす。 ぽふん、とクッションの上に頭を乗せながら、天井に下がるライトを見つめた。それをぼんやりと見ていると、昔の記憶が風が吹いた様に蘇ってきた。 曖昧な記憶も混じっていて、全部が鮮明にって訳では無いけれど。これだけは言える。 どの光景にも、隣にはスクアーロが居る。
ぱち、と瞬きをして光景がリセットされると。力なく手がぱたりと床に落ちた。
「決まったのかぁ」後ろから聞こえてきた低い声に、"...それがさあ、"と。ゆっくりと口を開いた。
「あ?」
顔を上げたスクアーロと目が合う。水晶みたいに綺麗な目が此方を覗いた瞬間、何故か凄く安心して。ふ、と自然と頬が緩んだ。
「なんか、一緒に居るだけで良い気がしてきた」
ぽかんと口を開けた少し後、言葉の意味を理解したのか。フハッと笑い飛ばした。
「う゛お゛ぉい、随分と安上がりな女だな」
"いい彼女って言ってくれない?" 俺がンな事言うとでも思ってんのか、と返された言葉に。少し温くなったココアを飲みながらその姿を想像してみる。確かに、それはちょっと嫌かもと笑いながら、テレビの電源を付けた。
スクアーロは安くなんかないよ、と本人に言いかけた言葉は甘いココアと一緒に喉へ流し込んでやった。
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