復活夢版深夜の真剣創作60分一本勝負様より お題「はんぶんこ」
「半分ちょうだい」 ベルはそれが口癖だった。 コンビニで買ってきたアイスクリーム、冬の新作のショートケーキ、暇つぶしに作ったスノーボールクッキー。 "ベルの分あるじゃん"と言っても、私の手をとって一口で食べた後に、決まってこう言った。 「なんで?お前のだから良いんじゃん。」 うぐ、と言葉を詰まらせた私に三日月の様に笑い、 髪をぐしゃりと撫でキスをする。狡い、これだけで私を黙らせる事が出来るのも、彼にはお見通しだった。 むす、と口を尖らせる私に、またあの独特な笑みを見せれば。この言葉を告げて手を振ると、そのまま姿を消した。
「これからも、お前のは全部半分貰うから。」
なんて強欲な願いだ。こんなに我儘な王子なんているのか、と残されたケーキをぱくりと口に含んだ。 口の中で生クリームがほろほろと崩れていく感覚が、甘い筈なのに。どうしてだかその日は空気を食べている様だった。
「何で、此処に来たの」 今日は魔法もかけてもいない。 綺麗に巻いた髪も解けて、涙でぐちゃぐちゃになった化粧も全部、酷いものだと思う。 テーブルの上に乗った空き缶も、吸えないけれど買って噎せた煙草も全部。お姫様のイメージとは程遠いものだった。もう全部に疲れた、何をしても上手くいかなくて。一生懸命やってるつもりだけど、仕事も友達関係も家族も全部、全部全部上手くいかなくて。 私なんか駄目なんだって思ったら、涙も何もかも止まらなくて。 だからこそ、今日だけは会いたくなかった。 携帯の着信音が鳴っても、ベッドの上で鳴らしているだけで。 ベルの前でだけは、綺麗なままでいたかった。 だけどベルは、当たり前の様にボロボロ泣いてる私の前に座って、ずっと頭を撫でてくれている。
髪を撫でる手が優しくて、何よりも心地よくて。 "んー?"と、猫みたいな声で告げると。彼はにぃ、と白い歯を見せ笑った。
「約束したじゃん?全部はんぶんこするって」
なんで、そんなに綺麗に笑うんだろう。金糸の奥に揺れる宝石も全部。私だけのものだ、其れが嬉しくて。十二時の鐘なんてとっくに終わって、魔法は解けてしまったのに。
私だけの王子様だね
気付いたら、それを言葉にしていた。それにも驚いたけれど、「いまさら?」と告げられるその声が何よりも愛おしくて。彼の首元に顔を埋めると、ふわりと広がる甘い香りの心地良さに微睡み、こう告げた。
ううん、ずっと。ずっと前から。
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