#復活夢版深夜の真剣創作60分一本勝負様より
お題「恋バナ」





「ねえ、恋バナしてみない?」

そう、ソファーに仰向けに寝転がっていた彼の手から雑誌を剥ぎ取ると、徐にそう声を掛けてみた。ぽかんと開いた口。少しの間の後。ソファーから上体をのっそりと後に、深く深く吐き出された溜め息。幼馴染の可愛らしい提案になんだその態度は。
「自分で可愛らしいって付け足すの流石すぎますねー」

「ちょっと、読心術使うの禁止」

「そんな無茶な。ていうか今の全部口に出てましたよー?」

"え゛"と思わず声が出た。
潰れた蛙みたいな声出しますねー と聞こえる声に、「フランにだけは言われたくない。」と返す。
嗚呼、ダメだ。今日も話が進まない。

「こいばなって、あれですかー?竜門に勇敢に挑戦する勇気あるお魚さんのお話ですかー?」

「それは鯉の滝のぼり。何処で覚えてくんのよそんなもん。」

「ししょーが言ってましたー、お前も早くその鯉の様になりなさいだとか。ぐだぐだずっと同じ話するんで覚えちゃったんですー」
師匠、とよく呼ばれてるその人は見た事が無いけれど。この人を相手に数年間享受したのだから凄い人だ、と思う。「だからミーの被り物を鯉に、ついでにししょーもどうぞーって特大ビッグの鯉にしてあげたらししょー顔真っ赤にして怒っちゃって...」「なんで怒ったんでしょうねー」と続いて聞こえた声に、遠い地にいる師匠さんへと同情の目を向けた。
私だったら3日で匙を投げる。
ていうか多分2日目で五百円玉ハゲが出来てる。

「ハゲるんですか?面白そうですね」
そこだけ聞いてんじゃ無いわよと呟くと、彼の座るソファーの肘掛にとす、と乗り上げた。

「鯉、じゃなくて恋。興味無いってのも嘘でしょ?」
"フランくんも年頃だもんね〜"と溢れる笑みを抑え、目を閉じながらうんうんと頷いてそう言った。だけど、その後に続いたのは数秒間の沈黙。返事が帰って来ないのを不審に思い、そっと目を開けると。「何言ってんだこのアマ」とでも言いたげな表情で此方を見ていた。なんだその顔は。良いじゃないかたまにはそういう話をしても。

「...いいじゃんたまには、そういう話してもさ。」
想像してたよりも口から出た声が弱々しくて、羞恥心にそれから先は何も続けられなかった。
その代わりに聞こえてきたのは、何も変わらずに淡々と告げる彼の声。

「へえ、好きな人いるんですか?」

「......知ってる、でしょ。」
薄らと目を開けた。ムカつく程に綺麗に笑って、長い睫毛の奥の翡翠がふと柔らかに細まる。其れが、何だかすごく綺麗で。
思わず、そう言葉を返すと。彼はソファーから立ち上がりながら、「いいえ、なんにも?」と告げた。
嘘なんか付いてない、とでも言いたそうに。ちらりと覗く双眸が、真っ直ぐに此方を射抜く。

うそ、 と告げようとした直後。
「嗚呼、でも。」と、彼の言葉が遮った。

「言えない理由は分かりますよ」
きっと、真っ赤になっているであろう私を見ると、彼はまた馬鹿にしたように、子供を揶揄うかのように小さく笑んだ。本当に、狡くて、だけど、適わない。

次こそは、絶対にその口から聞き出してやる。と、その時私は決心した。



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