# 復活夢版深夜の真剣創作60分一本勝負 様より
お題「危機感もって」




「あ」

階段を踏み込もうとしたその時、がく、と踏み外した。両手に持っていた荷物の重みから体勢を変えることも出来ず、ぐらりと身体が真後ろに倒れていく。スローモーションで遠ざかる、先程まで自分が居た場所に__あ、やばい。と、瞬きもせずに只見つめていた。


「あ、ありがと…スクアーロ」
辺りに散らばった、両手に抱えていた荷物。履いていた靴も片方だけが投げ出されて、童話のシーンの様に階段の途中にポツリと落ちている。落ちる寸前に、下にいたスクアーロに受け止められたのだ。上記の言葉を言いながら見上げると、いつもよりも深く深く刻み込まれた眉間の皺の奥で、ギロりと此方を見下ろす鋭い瞳孔に睨みつけられ。珍しく心臓がバクバク鳴り出した。どうやら随分と怒っているらしい、これはまずい。あちゃー…と苦笑いをひとつ浮かべる私に、スクアーロは大きな溜め息を吐くと。こう言葉を続けた。

「…てめぇは。少しぐらい危機感とかは持てねえのか」

"先週なんか庭の花の写真を撮りに行くだの何だの言って そのまま脱水症になりかけた時もありやがったな" 低い声で言われる言葉がグサグサと心に刺さっていく。うう、耳が痛い。いやいや全く、仰る通りでございます。水分も取れよって忠告してくれていたのに、馬鹿な私は写真撮るのに夢中になっちゃって…。その後もこっぴどく叱られた。
そして、今日がこれである。
そりゃあ怒られるよね、と心の奥底で反省をすると。ちらりと彼の方を見上げた。"ンだぁ、なんか言うことでもあんのかぁ " と言われ、うんと頷き返す。

「うん、本当に私の不注意が酷かった。ごめんね。」
「多分、スクアーロと一緒に居るから、安心しちゃってたんだと思う」

「は、」
ぽかんと口を開けた彼を気にせずに、肩を落として更に言葉を続けていく。

「でもいいよ、確かに頼りすぎは良くないし。そうだよね。」

「い、いや、ちょっと待て」

「スクアーロだって疲れちゃうし、私がもっとしっかりしてスクアーロの助けも要らないぐらいにならなくちゃ_」

「う゛お゛ぉ゛ぃッ!!!!話ぐらい聞きやがれぇ!!!!」

突然の怒声にぱち、と目を丸くした。
髪も一瞬浮かび上がるほど凄い風圧で、ぐわんぐわんと微かに耳が反響している。ゼェ、ハァ、と肩で息を整えたあと、スクアーロはバッと顔を上げた。
何を言われるのか分からなくてビクッと肩を震わせると、聞こえてきた言葉にえ、と声を漏らした。

「…その、別に、俺に頼んのが悪いなんか言ってねえだろ。」
"あ゛ぁー、クソ、もう忘れろ、いつも通りでいい"
ばつが悪そうに、そう顔を逸らしながら言う彼の頬が、少しだけ赤くて。何だかすごく可愛くて、思わずふふ、と笑ってしまった。
"てめぇ、何笑ってやがる!"と声を荒らげる彼に、ごめんごめん、と笑い返した。

単純だなあ、と思うけど。
そんな言葉でも嬉しいんだから私も随分と単純だ。




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