「何してんですかー、アンタ」

「…………はへ、」

ぼやけた視界に、凄く大きい黒い丸が浮かんだ。
何この黒い丸、…いや、丸じゃない。なんか二個ぽこぽこしてる、………このシルエット、どこかで__あ。

「かえ、る?」

「おー、よく分かりましたねー、まあ分かりますかこんなでっかいカエル頭。」

そう呟くのは、女の子…?にも見える、男の子で。
目の色も、髪の色も同じ。緑を薄くして、少しだけ水色を混ぜたみたいな綺麗な色。
でも何処か異質で、その髪色とか、目の下の三角のペイントとか…極めつけは、そのでっかいカエル。
いや待って、というかまず此処は?そして君は誰?

「何、ここ、何処、誰、」

「ミーの事しょーとくたいしかなんかだと思ってますー?」

"一応言ってあげますがねー、ミーなんて優しいんでしょー "
表情ひとつ変えずに、首を傾げる姿は女の子みたいに愛らしいのに。なんだか言葉が地味にチクチクしている。気の所為、うんきっと気の所為、と意識を逸らそうとするけど。何分全然聞いたことも無い、カタカナだらけの言葉に耳が情報を拾おうとしない。右から左に流れていく言葉の数々に、只ぽけー…と口を開いていた。

分かりましたかー?と聞こえてきた声に、びくりと肩を震わす。え、えっと、と脳をフル回転させ、あ、そう言えば_と、思い浮かんだ質問を投げかけてみた。

「何であなたはこんな所にいるの…?」

「だから任務だって言ってんだろこのアマ」

チッと小さい舌打ちと共に、ボソリと一息で呟かれる。とんでもない口の悪さだこの人。に、にんむ…?何?自衛隊とかそういう…?その被り物も敵を威嚇する為の特殊訓練の一種とか?
グルグルと思考回路を回していたら、目の前の彼が口を続ける。

「そういうアンタは?なんでこんな森の中に?」

「…分かんない。」

「は?」

「えっと…昨日バイトで疲れちゃって…コンビニ帰りにフラフラ歩いてたら、いつの間にか此処に…」

我ながらなんとまぁ危機管理能力の無い…と情けなくなってくる。申し訳ないが、本当にその通りなのだ。右手のレジ袋に目をやると、昨日買った商品が見えて少しほっとした。昨日、バイトの帰りにコンビニでサンドイッチとりんごジュースを買って、そのまま歩いてて…その後の記憶が無い。もうきれいさっぱりない。思い出そうとしても無理だった。

「夢ですよ」

ぽつり、と呟かれた言葉に。一瞬目をぱちぱちと瞬いた。
夢?と繰り返したその言葉は、口にするだけで不思議な気持ちになる。なんて言うか、意識が微睡むというか。誰かとメリーゴーランドに乗ってるような、何故か、凄く懐かしい気持ち。

「そう、これは疲れたアンタが見た夢ですー」

わたしがみた、ゆめ
何でだろう、凄くすとんと心に落ちてくる。そうか、これは夢なのかあ、と思うと。周りの景色が時期に霧がかった様に薄れていく。森と霧ってこんなに綺麗なんだ、と何処か冷静な自分がいた。

「分かったらさっさと寝てください、ほら、寝ろー」

ぽすんと片手で目を覆われて、その体温に目の奥がとろりとしてくる。お日様みたいな香りと、体温に。何だか凄く安心する

"顔撫でるだけで眠くなるなんて、猫かなんかみたいですねー"

軽く笑われながら言われた。私だって疲れてるんだ、そう、だから良いんだ。夢の中でくらい、たまには誰かの前で寝ても、いいじゃないか。

また、疲れたら来てもいい?

そう無意識に口から出た言葉に、彼はふ、と息を零しこう言った。

アンタ白昼夢って知らないんですか

確かに、と思わず笑ったその時。指の合間から見えた柔らかい青磁色の髪に。遠くなる意識の中、小さい頃庭先で見つけた四つの葉を思い出した。



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