# 復活夢版深夜の真剣創作60分一本勝負 様より お題「もっと」
「ねえ、後悔してない?」
「今更何言ってんだぁ、怖気付いたか?」 "まさか!" 思わず即座に言い返すと。彼は"だろうなあ" と 、くくと喉を鳴らし笑った。
事の発端は私の提案だった。"結婚式をしてみたい" そう、たった一言の私の言葉から。勿論此処は式場なんかでは無いし、私の服はウェディングドレスでも無ければ、私の頭に被せられたのはヴェールではなく、ただのレースカーテンだった。そう、言わばこれは結婚式の真似事。_真似事だって、私にとっては良いのだ。彼と結婚式を挙げるなんて、きっと彼の立場上この先も叶わないだろうから。一応、そのくらいは分かっている。提案をする時だって、口にした後は言わなければ良かったかな、と思ったりもしたけれど。 シニョンに纏めた髪だって、このシルバーネックレスだって。普段だったら絶対にしない。ちらりと視線を送れば、スクアーロは普段下ろしている髪を横に一つに束ねていた。服装もいつものラフな格好や隊服ではなくフォーマルなスーツで。これだけで特別な感じがして、嬉しくて口角が上がるのを、我慢できない。
真似事だけれど、やる事はちゃんとやろう という私の提案も又もや簡単にOKを貰う事が出来て。指輪交換や、友人代表スピーチ(私が友人役を一人でやった所、スクアーロにすごく冷めた目で見られた気がしたけれど、今は知らないフリをしておく。)、ケーキ入刀(エア)_などなど。色々な事はやったつもりだ。
そして待ちに待った誓いのキス。 ヴェール_もといレースカーテンを捲る手がいつもの彼から想像できないぐらい優しくて、思わず笑ってしまう。笑うなよ と制され、ごめんと目を開けると。 目の前の彼が、あまりにも格好良くて。思わず言葉が止まってしまった。
少しの間の後。"ねえ" と切り出した私の声に、「んだぁ?」と彼が問い返す。さらりと肩から流れ落ちた白銀の髪に陽の光が反射して、きらきら光って。宝石なんかよりもこっちの方が何倍も綺麗なのに、と。そう本気で思った。
「_ちゃんと、私のこと好き?」
殆ど無意識に言った後、我ながらなんとまぁ重く面倒臭い女の一言だろうと思った。だから後悔した。"待って、待ってね、今のなし。" と自身のいたたまれなさに顔を伏せ、そう告げようとした直後。 「たりめえだろ」 と、ポツリと声が聞こえた。
へ、と。瞬く事すら忘れて、彼を見上げる。
「言って欲しかったんじゃねえのか?」
「こんな日ぐらい素直に言いやがれ」
淡々と、さも当然かのように言い放つその言葉が。どれだけ格好良くて、私の心臓を止まらせる程の衝撃があるのか。きっとこの男は知らないんだろうな。そういう所に、私は、___
「_もっと、」 ポツリと、雨水みたいにほろりと口から零れた其れに。彼は満足そうに目を細めて、ん? と首を傾げた。
「好きって言葉も、色んなの、全部、」 「もっと、いっぱい頂戴 」
「嗚呼、要らねえって言うまでくれてやるよ」
あまりに端的な言葉にぷはっと笑うと。 そのまま私の後頭部を手で引き、鼻先が触れるか否かの距離で。彼はそう言った。 男前な顔をしているなあだとか、長い銀髪が視界の隅に映って、ステンドグラスみたいに綺麗だなあとか、色んなことを思う余裕なんか、その時の私にはなくて。 只嬉しくて、目尻に感じる涙に、アイメイク落ちちゃうなあなんて思いながら 、へへ と笑い返した。
自由に泳ぐ鮫を止める足枷になんて、なりたくはないから。だから、せめて。 幸せな記憶を抱いていたら、きっと寂しくないと思うから。大好きなその声を、私はきっと忘れない。
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