#復活夢版深夜の真剣創作60分一本勝負 様より
お題「告白」






「好きです」

目の前の彼の目を見て、そう告げる。
少しだけ驚いて、開かれた目が嬉しくて。嗚呼、言ってしまった、もう逃げられない。ばくばく、ばくばくと。次第に心臓の音が早くなって__

_なんて、ぷっと堪えきれずに吹き出したのは、私の方だった。
"てめえが笑ってどうする"と告げる少し呆れた声に、だって状況が状況なんだもん と笑う最中途切れ途切れに何とか伝える。一通り笑い終えた私は目尻の涙を拭い、はー と息をついた。

「でもさっきのが、日本の告白では主流かなあ」

「主流?ンな短ぇので終わんのか?」

「え。」

"やっぱり女性を落とす愛の言葉を言える事は英国紳士としての嗜みなの?" そう聞くと、「言わねえよ」とばっさりと切り捨てられ、そのまま読み掛けの新聞に目を落とす彼になんだ、と肩を落とした。

「なんだとはなんだ」と短く聞こえてきた声に、「いや私も昔はさっきのみたいに言ってたなあって、懐かしくなって」と返しながら、軽く笑った。いやあ、あの頃は若かった。とでも言うと、またババくせえと水を差されるから言わないでおく。それでも、パッとしない私の人生の中では青春だったのかもしれない、と思えるぐらい。あの頃は真っ直ぐにきらきらした日々だった。

彼の言葉が返ってこなくなり、何か変な事言ったかなと少し心臓が縮こまる気がして。気を逸らすため伸びてきた髪を手に取り、それをぼーっと見た。
あー、そろそろ美容院行かないとなあ。駅前の行きつけの美容院、予約取れるといいなあ。

前に行ったのはどれぐらいだろう、確か。あの時。待合席で座ってた時のテレビで、イタリアに移籍したサッカー選手が、奥さんに向かってこう… ハニー?愛してるみたいな言葉を言ってた気がする。いやハニーでは無いのは確かだけど。なんだっけ。あ、えっと、確か … アモーレ?
曖昧だけど、合ってる気がする。あと、…もう一つ。

「…なんだっけ…?えっと、イタリアのそういう時の言葉… たしか、ti_ 」

頭を捻り、朧気な記憶の片隅から何とか手繰り寄せる。曖昧な記憶を辿ってふわりと浮かんできたその言葉を告げようとしたその時。
頬を掠めた柔らかな髪と、柔らかな海の香りに、え?と、思わず目が瞬いた。

「__ .」

耳元で聞こえた声に、息が止まった。
そして、その状況に気付いた途端。顔が一気に赤くなるのが分かった。
何かを言おうにも、ただ口をはくはくさせるだけで声も出なくなった私を見て、目の前の彼は愉快そうにくくと喉を鳴らした。

「う゛お゛ぉい、鯉みてえな顔してどうした?」

「鯉じゃないし、鮫に言われたかないわ」

"てめえは一言多い"と、ぎゅむ、と鼻を摘まれ女の子らしくも無い悲鳴を上げた。女の子に対する扱いでも無いのだ、変形したらどうしてくれると鼻に手を当て彼を見ていると。目が合った瞬間、彼はふと目を細めた。思わず目を奪われる、先程まで鼻を摘まれ痛い思いをしたのに、我ながら可笑しな話だと思う。でも。

「言ってやったから、もう分かっただろ」

「してみろ、聞いてやる」

私の一番好きな表情で、私の一番好きな声で。
口角を上げて、自信たっぷりと彼は言う。

「…ほんと、良い性格してるよね」

発音なんて歪だし、そもそもイタリア語なんて知らないから。彼からしたら、それはそれは拙いものだと思う。なんで言わせるの、と思ったけれど。生憎何となく察しはついてしまっている。立ち上がり、彼の目を見る。身長差はかなりあるのに、屈んでもくれないのかこの男は。屈んでくれないの?と聞くと、そっちが合わせればいいだろ?と返された。無理にも程がある、だけど。困ってる様子を見るのが好きなんだろう、そういう男だ。はあ、と小さく諦めの溜息をつくと。爪先にぐっと力を入れ、背伸びをした。


下手くそな私の、"最初の告白"を、あげるとしよう。





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